One year left -家族ごっこ-
やがて、吸い上げられていた唇が、なめらかな音を立ててゆっくりと離れる。


繋がっていた熱が切れた途端、洗面所の重苦しい空気が、私たちの間に滑り込んできた。


碧くんは低く短い息を吐きながら、私の目尻に溜まっていた涙を、親指の腹でそっと拭った。


「早く、シャワー浴びてきなよ」
 

「え?」


「服、透けてるから」


おじさんの車から飛び出し、真夏の陽炎の中をがむしゃらに走ってきた身体。


汗を吸って肌にぴったりと張り付いた薄いTシャツの奥で、私の無防備な心臓の鼓動が、そのまま透けて見えているようだった。


私はたまらなくなって、両腕で胸元を抱え込むようにしてその場に小さくしゃがみ込み、首をすくめる。


その必死な拒絶を前にして、彼もまた、衣擦れの音を立てて私の隣に膝を折った。


逃げ場のない距離で、彼はただ満足そうに私を射すくめる。


「じゃあ、続きは、またあとで」


耳元で低く囁かれた言葉の重みに、私は呼吸の仕方を忘れる。
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