One year left -家族ごっこ-

【融解】

「それは、だめ」


私は碧くんの唇にそっと手を当てた。


「……なんで?」


「私は物じゃないから、あげられません」


その瞬間、暗闇のなかで彼の呼吸がわずかに止まり、琥珀色の瞳の奥に、低く昏(くら)い火が灯るのが見えた。


彼は不機嫌そうに目を細めると、私の手首をごつごつとした大きな手で包み込む。


そして私の指の一本一本に、這わせるようにして舌を滑らせた。


「星来と偶然会ったとき、なんで誰か聞かなかったの?」


吸い上げられる爪の先から、じわりと熱が浸食し、背筋に甘い電流が走る。


指の隙間に、碧くんの濡れた舌が容赦なく割り込んでくる。


「聞きたくなかったから……」


「なんで?」


「悠生くんが、碧くんには本気だった元カノがいたって言ってたから……」


「だから?」


注ぎ込まれる熱に、私の指先がぴくりと震えるように反応した。


脳に血がうまく回らず、呼吸がどんどん浅くなっていく。


「あのひとのことだと、思ったの……」


かぷ、と指の付け根の柔らかい皮膚を優しくかじられて、小さな吐息が口元から漏れた。


「碧くん、くすぐったいからやめて……」


手を引っ込めようとしても、完全に包み込まれた私の腕は動かせない。
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