One year left -家族ごっこ-
「そういえば、今日親父から電話きた」


その言葉に、私は今日おじさんの車を飛び出したときの、お母さんの金切り声を思い出して喉の根元が引き締まる。


「なんて?」


「萩花が血相を変えて車から降りたけど、ちゃんと家に帰ってきたかって」


「そうなんだ……」


「課題が終わらないって泣きながら部屋にこもったって、言っておいたから」


碧くんは髪を撫でていた手を私の頬へと優しく滑らせると、どこまでも真面目な顔をした。


私を守るための優しい嘘に、口元がかすかに緩んだ。


「機転がきくね」


シーツの脇に落としていたスマホの画面をそっと確認したけれど、お母さんからの通知は一件も届いていなかった。


お母さんは怒っているのか、それとも私を見放したのか。


けれど、そのどちらであったとしても、この沈黙は私に対する無言の罰だ。


「母親からは、連絡きた?」


「ううん。きてない」


「大丈夫か?」


「うん、大丈夫」


暗闇の中でぎゅっと拳を握りしめ、私はお母さんの幻影を頭の隅へと押しやった。
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