One year left -家族ごっこ-
一段、また一段と坂を下りていくにつれて、境内の賑やかな盆踊りの太鼓やまわりの人たちの騒がしい声が、まるで遠い世界の出来事のように小さく、薄れていくのが分かった。


坂を下りきった先にある暗い川べりには、お祭りのメイン会場とはまったく違う、ひっそりとした静まり返った空間が広がっていた。


屋台の派手な明かりは一切置かれておらず、ただぽつんと、小さな受付のテントがひとつだけ立っている。


碧くんは繋いでいない方の左手でふたつ分の和紙の灯籠を受け取ってくれた。


「これに文字を書いて、川に流す」


闇に紛れるような密やかな近さで囁かれた、碧くんの低い声に不意を突かれ、私は小さく息を呑んで顔を上げた。


彼の大きな手のなかに、二つの白い和紙の灯籠が収まっている。


「どうして?」


碧くんは暗闇のなかで、静かに水面を見つめながら言葉を継いだ。


「戻ってきていた魂が、迷わずにあっちの世界へ帰れるように見送るためのものらしい。だから、萩花の父親に向けて、書きたいことを書けばいい」


彼の手から差し出された、まだ明かりの灯っていない四角い和紙の枠を、私はそっと両手で受け取った。


私たちは川のせせらぎの音に包まれながら、暗闇のなかの古い長机の上で、並んで無言で文字を書き始める。


お盆の夜、亡くなったお父さんの魂へと流す和紙の灯籠に託す言葉を思う。


胸の奥に溢れる数々の記憶のなかから、本当に伝えたい感情を、選び取った。


“お父さん、助けてくれてありがとう”


あの日、お父さんが自らの命と引き換えにして、盾になって守ってくれた、この身体。


お父さんが命を懸けて繋いでくれた、この命。


自分の命の価値を自分で認め、碧くんと一緒に生きていくと誓う。


だから、どうか見守っていて。
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