One year left -家族ごっこ-
碧くんはそれを持って洗面所へと向かうと、冷たい水を使って金魚鉢の隅々まできれいに洗い流してくれた。


お祭りの屋台の店主から貰ってきたカルキ抜きの水を丁寧に注ぎ、一匹の小さな赤い金魚を、その新しい場所へとそっと放してあげる。


きれいになった金魚鉢を大きな両手で抱え、彼はそれをリビングボードのうえへと静かに設置した。


そこは、お母さんとおじさんの笑顔の写真が飾られている場所のすぐ脇だった。


新しく用意されたガラスの鉢のなかを、赤い金魚が優雅に尾ひれを揺らして泳ぎ回り始める。


私たちはその棚の前に並んで立ち、揺らめく金魚の姿を、じっと見つめ合っていた。


「碧くん、金魚飼ったことあったんだね」


私がぽつりと声を漏らして、すぐ隣に立つ碧くんを見上げると、彼は静かに瞳を細めた。


「ガキの頃にな」


低く落ち着いた声でそう返した彼の横顔は、いつになく遠い場所を見つめているように思えた。


私は彼の表情からそっと視線を外すと、オレンジ色の明かりを透かして眩しいきらめきを放つ金魚鉢へと目を移した。
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