One year left -家族ごっこ-
「なんだか、すごく優しい形をしてるね」


「そうか?」


碧くんは無表情のまま、金魚鉢の少しいびつな硝子をその長い指先でそっとなぞった。


「碧くんが買ったの?」


「いや、この鉢は母親が買ってきた」


そう呟いた碧くんは、金魚鉢のなかで揺らめく水の光をじっと見つめたまま、ふいに静かな沈黙に落ちていった。


彼の瞳がまるで遠い過去の記憶を思い起こすようにして、ほんの一瞬だけ、小さく揺らいだのが分かった。


「……碧くんのお母さんって、どんな人だったの?」


「サバサバした人だったよ」


私が一歩踏み込んで尋ねると、碧くんは金魚鉢に向けていた瞳をゆっくりと動かし、私の顔をまっすぐに見つめ返してきた。


「親父に依存しない、バリバリの仕事人間だった。料理も掃除も苦手で、いつも何で私ばっかりって愚痴ってたな」


「そう、なんだ……」


「自分の本音を隠したり、飾ったりしない人だった」


彼の口から紡がれる実のお母さんの姿は、私のお母さんとは違いすぎていて、私は言葉を返すことも忘れてただ心の芯を締めつけられていた。
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