One year left -家族ごっこ-
「萩花の母親と、真逆だろ?」


「うん……」


「萩花の母親は、親父に甘えるのが上手いし、料理も掃除も得意だもんな」


碧くんは喉の奥を低く鳴らすと、金魚鉢のなかで軽やかに動く赤い影を指さした。


「金魚は、小学生の頃に母親と行った夏祭りで掬ってきた」


「……おじさんは、一緒に行かなかったの?」


「ああ。俺の家は、俺が物心ついた頃からずっと夫婦仲は冷え切ってたから」


「え……」


「三人でどこかに行った記憶もない。強いて言うなら、俺たちが四人で行ったあの動物園くらいか」


碧くんはそう言うと、どこか冷めたように、自嘲を孕んだ声を漏らした。


「だからだろうな。親父が家族って言葉にこだわるのは」


彼の言葉に、私は驚いて顔を上げ、その横顔を見つめた。


「動物園も水族館も、萩花の職場見学の旅行も。温泉だってそうだ。全部親父が家族でって、計画立ててただろ。前の結婚で、どこにも出かけられなかったのが相当寂しかったんだろうな」


おじさんのあの何度も嬉しそうな声で提案していた理由が、すべてこの冷え切った過去に繋がっていたのだと知る。
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