One year left -家族ごっこ-
私たちは自然と、すぐ傍らにあるリビングボードのうえへと視線を戻した。


そこには、少しいびつな形をした小さな鉢のなかで、赤い金魚がひらひらと尾ひれを揺らして泳いでいる。


「名前、つける?」


碧くんもその硝子鉢を見つめたまま、少し低めの声で呟いた。


「昔飼ってた金魚の名前は、なんだったの?」


「キンちゃんと、ギョピ」


「そのままだね」


思わず吹き出してしまった。


彼のネーミングセンスが可笑しくて、愛おしくて、さっきまで泣いていたのが嘘みたいに、唇から自然な笑顔がこぼれ落ちる。


「大切に育ててあげたいな……」


私はガラスの金魚鉢の前へと顔を近づけた。


透明な水の向こうで揺れる赤い影を見つめながら、人差し指の腹で硝子の表面を優しく小さく弾く。


こちらの気配に驚いたのか、金魚が水の中で小さく尾を振った。


「だったら、愛でいいんじゃない?」


「愛?」


「大切に、“愛して”育ててあげるって意味」
< 322 / 405 >

この作品をシェア

pagetop