One year left -家族ごっこ-
洗面所で朝の支度を済ませてから、そのまま静まり返ったキッチンへと向かった。


リビングボードのうえでは、いびつな金魚鉢のなかで愛ちゃんが静かに尾ひれを揺らしている。


「おはよ」


私は硝子の表面へと顔を近づけ、そっと指先を滑らせた。


水面近くで小さく口を動かし、細い尾ひれをひらひらと翻(ひるがえ)す姿は、見つめているだけで心が澄んでいくように愛らしい。


「愛ちゃんもお腹すいたよね。もう少し待っててね」


硝子越しに小さく語りかけ、私はその可憐な泳ぎをそっと瞳のなかに焼き付けてから、二人分の朝食を用意するためにキッチンへ向かった。


冷蔵庫を開けると、お母さんが残していった、作り置きの料理がまだそこに並んでいる。


私はそれを手際よくレンジで温め、二つの皿の上へと盛り付けた。


湯気を立てる皿を静かにテーブルへと運び、二人分のカラトリーを並べ終える。


それと同時に洗面所のドアが開く音が響き、シャワーを浴びたばかりの碧くんがリビングへと現れた。


髪をまだ少し湿らせたまま、首元のタオルで無造作に水気を拭いながら、彼は真っ直ぐリビングボードの前へと歩いていった。
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