One year left -家族ごっこ-
私はすぐに掃除用具を手に取った。


お母さんの顔色を窺って、掃除していた気持ちとは違う。


長年の習慣となったこのルーティンは、もう私の身体の一部であり、何より、私自身が綺麗な空間で心地よく過ごしたくて、自らの意志で動いていた。


掃除機をかけ、水回りを磨き、お風呂やトイレの隅々までを丁寧に手際よく整えていく。


家中が一通りすっきりと片付いた頃、玄関のドアが開き、日曜日の混雑の匂いをまとった碧くんが帰ってきた。


「お待たせ。かなり並んでた」


彼は大きな手でマックの紙袋をテーブルに広げ、私たちは遅めの昼食をリビングでとり始める。


ポテトを分け合い、ハンバーガーを口に運ぶその時間は、ただただ穏やかで、普通の恋人同士のような気取らないあたたかさに満ちていた。


リビングボードの上では、金魚鉢のなかで愛ちゃんが静かに尾ひれを揺らしている。


二時を少し過ぎた頃、彼のスマホが短く震えた。


画面を覗き込んだ碧くんが、ふと手の動きを止め、琥珀色の瞳をこちらに向ける。
< 332 / 354 >

この作品をシェア

pagetop