One year left -家族ごっこ-
おじさんと和解を交わしたその背後から、遅れてお母さんがリビングへと入ってきた。
「碧くん、お誕生日おめでとう。遅くなってごめんなさいね」
高く澄んだ、完璧な祝福に満ちた声だった。
けれど、その優しい視線が私の存在を完全に排除するようにして素通りしていく。
視界にすら入れてもらえないという、徹底された拒絶の重力に、私はかすかに震えた。
お母さんの視線はそのまま、リビングボードの古い金魚鉢へと移っていく。
いびつな硝子のなかで、小さな金魚が静かに尾を揺らしていた。
「……あら。金魚」
お母さんは小さく呟く。
「碧くん、お祭りに行って来たの?」
碧くんが「友達と」と口を開きかけた気配を察し、私はそれを遮るようにして一歩前へ出た。
「碧くんと二人で行ってきたの」
柔らかな笑みを浮かべているはずの、お母さんの網膜が暗く冷ややかに据わっていく。
おじさんや碧くんには決して気付けない、彼女の奥底にある歪みを正確に捉えられるのは私だけだった。
私はお母さんのその瞳を、逸らすことなく正面から見つめ返した。
かつての私なら、その視線だけで喉の奥を凍りつかせていたかもしれない。
「そうか、二人で行ってきたのか。仲が良くなったなぁ。まるで本当の姉弟みたいだ」
おじさんが心底嬉しそうに、無邪気な声を響かせる。
見つめ合う視線のなかで、お母さんは美しく、それでいてどこか冷淡な笑みを唇の端に刻んでいく。
「そうなのね」
その短い一言の裏に、私に対する底のない深い怒りが潜んでいることを、私は冷徹に理解していた。
「碧くん、お誕生日おめでとう。遅くなってごめんなさいね」
高く澄んだ、完璧な祝福に満ちた声だった。
けれど、その優しい視線が私の存在を完全に排除するようにして素通りしていく。
視界にすら入れてもらえないという、徹底された拒絶の重力に、私はかすかに震えた。
お母さんの視線はそのまま、リビングボードの古い金魚鉢へと移っていく。
いびつな硝子のなかで、小さな金魚が静かに尾を揺らしていた。
「……あら。金魚」
お母さんは小さく呟く。
「碧くん、お祭りに行って来たの?」
碧くんが「友達と」と口を開きかけた気配を察し、私はそれを遮るようにして一歩前へ出た。
「碧くんと二人で行ってきたの」
柔らかな笑みを浮かべているはずの、お母さんの網膜が暗く冷ややかに据わっていく。
おじさんや碧くんには決して気付けない、彼女の奥底にある歪みを正確に捉えられるのは私だけだった。
私はお母さんのその瞳を、逸らすことなく正面から見つめ返した。
かつての私なら、その視線だけで喉の奥を凍りつかせていたかもしれない。
「そうか、二人で行ってきたのか。仲が良くなったなぁ。まるで本当の姉弟みたいだ」
おじさんが心底嬉しそうに、無邪気な声を響かせる。
見つめ合う視線のなかで、お母さんは美しく、それでいてどこか冷淡な笑みを唇の端に刻んでいく。
「そうなのね」
その短い一言の裏に、私に対する底のない深い怒りが潜んでいることを、私は冷徹に理解していた。