One year left -家族ごっこ-
家を出ると、外の空気は夕暮れの気怠さをはらんで重く停滞していた。


助手席へと乗り込みドアを閉めると、カチリとロックがかかる無機質な音が密室に響く。


吹き出し口からの冷房はまだ生温く、微温の風となって私の皮膚を執拗に撫でた。


お母さんは何も言わず、ただ前方を見つめたまま車を発進させる。


規則正しいウインカーの音だけが響く車内には、不気味な静寂が横たわり、私の呼吸を浅くさせた。


正面から動こうとしないその横顔が、逃げ場のない空間を圧迫していく。


その息苦しさに耐えかねて、窓のスイッチを押し込んだ。


ガラスが滑り落ち、西日の残る暑い大気が一気に流れ込んでくる。


耳元を掠める風の音を切り裂くように、お母さんが冷ややかな声を淡々とこぼした。


「萩花のキャンセル料、百パーセントかかったわよ」


感情を削ぎ落としたその一言が、私の胸をえぐっていく。


喉の奥に氷の破片(かけら)が詰まったような感覚を覚えながら、ただ視線を落とした。


「……ごめんなさい」


お母さんはそれには答えず、アクセルを踏み込んで車の速度を上げた。
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