One year left -家族ごっこ-
それから彼女は、私のささやかな逃げ場を無くすように、運転席のスイッチへ指先を伸ばした。


乾いた機械音とともにガラスが上がっていき、外の空気は完全に遮断される。


再び訪れた密室のなか、いつの間にか吹き出し口からの風が、急激にその温度を下げていた。


冷気が狭い空間を満たしていく。


お母さんの放つ、目に見えない氷のような冷たさに、肩をすくめるしかなかった。


「学校の課題ごときで、直前に温泉旅行を断るなんて、どういうつもりかしら」


カーブの手前で踏まれたブレーキの衝撃に、身体が小さく前へ揺れる。


交差点に差し掛かり、信号の赤に捕らえられて車が停止した。


「今回、夏休みの課題が多いの」


言い訳めいた私の言葉を、お母さんは鼻で笑う。


「そんなもの、いくらでもやる時間はあるでしょう。もうバイトもしてないんだし」


俯いていた視線の端で、彼女がハンドルを握る指先を滑らせた。


黙り込むしかできない私を突き放すような、その空気の重さに胸が詰まる。


「せっかく雅也さんが私たちのために用意してくれた温泉旅行だったのに」
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