One year left -家族ごっこ-
「萩花。あんたが勝手に車を降りたあと、雅也さん落ち込んで大変だったんだからね」


不意に背後へ投げかけられたその言葉に、胸の深部が鋭く軋む。


「ごめんなさい」


私の短い謝罪は、並べられた肉の群れに吸い込まれるように消えた。


お母さんは私の顔を見ようともせず、ただ厳選するように一つのパックを見つめ続けている。


「私が慰めても、全然効かないの」


平坦な響きはどこまでも冷徹で、だからこそ、私の心臓を容赦なく縛り上げた。


彼女は血の通わない手つきで目的の塊肉を掴み取ると、その重みを確かめるように手のひらで弄ぶ。 


「ほんと、どうしようかと思ったわ。……あんたのせいで」


お母さんはその塊肉を放り込むようにカゴへ落とすと、私の手元へ温度のない視線を落とした。


私の指が握っていたカートの手すりを、彼女は無言のまま奪い取る。


拒絶の意思を宿したその強い衝撃に、私の両手は宙へと虚しく放り出された。


そのまま振り返ることもなく、機械的な速度でレジの列へと向かっていくお母さんの後ろ姿を見つめる。


私の両手は、行き場を失ったまま冷えた空気のなかに凍りついていた。


どうしよう。


皮膚の裏側からせり上がってくる無慈悲なまでの心細さに、視界が歪みそうになる。


今、どうしても、碧くんに会いたい。
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