One year left -家族ごっこ-
お母さんの車が去ったあと、私は広い駐輪場で、アスファルトの吐き出す微温に晒されながら立ち尽くしていた。


遠くから鋭い速度で近づいてくる自転車の影が、私の瞳に映る。


ペダルを漕ぐ碧くんが、陽炎の向こうから空間を切り裂くようにして、私の目の前で止まった。


彼は自転車を投げ出すようにして飛び降りると、私の肩を大きな手で強く掴み、その顔を覗き込んでくる。


「萩花、大丈夫か?」


荒い息のなかに潜む彼の焦燥が、私の皮膚へと直接伝わった。


「大丈夫だったよ」


私は小さく笑みを漏らし、碧くんの胸元に視線を落とす。


「……ただ、私が従順でいなければ、お母さんにとって私は取るに足らない透明な存在だったってだけ」


落とした視線の先からぽつりと零れた声音には、怒りも、悲しみすらも含まれていなかった。


ただ完璧な諦念だけがそこにある。


口から出た言葉は驚くほど冷たく乾いていて、私自身の胸の底へ深く沈殿していった。


私の言葉を受け止めた碧くんの指先が、わずかに震えたように思える。


彼は何も言わなかった。


ただ、私の視界のすべてを塞ぐようにして、その大きな腕を回してくる。


言葉を介さない抱擁はあまりにも強固で、私の肉躯(からだ)の奥で暴れていた震えを、確実に押さえつけていくようだった。


透明になった私の輪郭を、碧くんの強烈な体温だけが、いま確かにこの世界に繋ぎ止めている。
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