One year left -家族ごっこ-
「碧くんは、私に気付いてない……?」


震える手でスマホを耳に押しつけ、藁にもすがる思いで声を絞り出す。


だけど、夕紗から返ってきたのは、細い希望を無残に打ち砕く言葉だった。


『ううん。むしろ萩花に気づいて、土手を下りてきたみたいだよ』


絶望感から、吐き気がした。


「まさか……碧くんに、ダンススクールのこと、言ってないよね……?」


スクールに通っていることさえ隠し通せれば、まだ言い訳は立つ。


ただの体育の授業の居残り練習だと、そうやって嘘を突き通せるはずだった。


『ごめん、凛と希歩が言ってしまった』


夕紗の申し訳なさそうな声が、受話口の向こうで小さく縮こまる。


「そっか……」


乾いた声が、自分の口からこぼれ落ちた。


あんなに本気で踊っていたんだ。


それを見たなら、普通はそういう会話の流れになる。


何も事情を知らない凛や希歩を責めるのはお門違い。


話していなかった私が悪い。


それは分かっている。


でも……


「碧くんが、お母さんに言ったらどうしよう」
< 35 / 407 >

この作品をシェア

pagetop