One year left -家族ごっこ-
夜の心地よい風を浴びながら、私たちは家へと帰宅した。


リビングのドアを開け、二人で声を揃えて「ただいま」と告げる。


ソファでテレビを見ていたおじさんが、温和な笑顔を向けた。


「二人とも、おかえり。萩花ちゃん、ダンスのほうはどうだい?」


その隣では、お母さんが無言でニコニコと見つめていた。


「はい。おじさんのおかげで、すごく楽しいです」


おじさんは嬉しそうに目元を優しく緩め、お母さんはさらに笑顔を深くしていった。


そのままリビングの片隅へと歩み寄り、ガラス鉢のなかを泳ぐ小さな金魚を見つめる。


背後についてきた碧くんが、おじさんたちに聞こえるくらいの自然なトーンで、声を投げかけてきた。


「今日は姉さんがエサやる番だよ」


その言葉の裏にある、二人だけの秘密の温度を耳で捉える。


「うん、分かってるよ」


振り返って微笑み、愛ちゃんにそっとエサをあげた。


水面に落とされた小さな粒を捉え、赤い影が小さな尾びれを細かく揺らして浮上してくる。


愛ちゃんは水面に小さな波紋を広げながら、健気に何度も口を動かして、そのエサを吸い込んでいった。


小さな愛のきらめきが、お母さんの目の前で、確かに息づいている。


おじさんたちに短く声をかけてからリビングを出ると、私たちは並んで階段を上っていった。


二階の廊下を進み、それぞれの部屋の前で、足を止める。


自分の部屋のドアノブに手を掛けたまま、碧くんは身体を少しだけ斜めに傾け、じっと私を見つめてきた。


同じ家にいるのに、もう触れることすら許されない境界線が、二人の間に引かれている。


「……じゃあね、碧くん」


小さく声をかけると、彼は「うん」とだけ応え、ドアの向こうへとその姿を消していった。


私も自室へと入り、扉を閉めてから、部屋の掃除を始めた。


机や棚の上を拭き、床にワイパーをかけていく。


それから、カーテンレールに干してあった洗濯物を一枚ずつ丁寧に畳み、引き出しのなかへと綺麗に収めていった。


すっきりと片付いた部屋を見渡したあと、いつも通り、一日の最後に誰もいないお風呂へと向かった。


湯船に身体を沈めて、凝り固まっていた疲れをじんわりとほぐしていった。


パジャマに着替えて、髪を乾かし、ベッドに入る。
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