One year left -家族ごっこ-
「話したいことがあるの」


「なんのこと?」


私は彼のすぐ近くへと歩み寄り、その視線を受け止めた。


「東京に行くの、やめた。私、この街に残る」


驚きに揺れるはずだと思っていた琥珀色の瞳は、薄明かりのなかで、ただ私を映し続けている。


「知ってる」


「……どうして?」


「温泉旅行の日、萩花が母親より俺を選んだから」


予測していた未来をただなぞるような、余裕に満ちた声が鼓膜に響く。


彼はゆっくりとベッドから立ち上がる。


その大きな身体が私のすぐ側を通り過ぎて、部屋の隅にある机へと向かった。


彼は引き出しから、一枚の紙を無造作に引き抜いて差し出してきた。


無言で手渡されたそのプリントをじっと見つめる。


その最上段に刻まれた彼の名前と、学年一位という数字が、目へと飛び込んできた。


「碧くん、これ……」


「萩花に振られたあと、猛勉強して、期末考査で獲った」


「すごい……」


驚きのあまり、無意識に自分の手で口元を覆っていた。


それ以上の言葉が出てこなくて、ただ呆然と立ち尽くす。
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