One year left -家族ごっこ-
それから三十分後、街並みを遥か眼下に見下ろす高みに辿り着いていた。


秋の乾いた風が吹き抜ける寂しい空間のなか、まずはそのまま水道へと向かう。


「萩花、花束持っててくれる?俺が水汲むから」


「うん、ありがとう」


手渡されたそのひんやりとした重みを、胸元で大切に抱え直す。


その隣で、彼は大きな手でバケツを掴み、蛇口から勢いよく溢れる水をたっぷりと注いでいく。


重くなったそれを碧くんが軽々と持ち上げ、二人の影が再び寄り添った。


整然と並ぶ墓石のあいだを通り抜け、お父さんのお墓の前へと近づいていく。


その一歩が、唐突に止まった。


そこには、お母さんの後ろ姿がぽつりと見えた。


碧くんと無言で見合わせ、呼吸を整えてから、その背中へと数歩、歩み寄る。


「……お母さん」


張り詰めた空気のなかで放たれた声に、彼女ははっとしたように振り返り、私と、隣に立つ碧くんを見てその瞳を大きく動揺させた。


「あなたたち、何で二人で……」


「碧くんもお父さんのお墓参りに行きたいって、言ってくれたの」


ありのままを伝えると、お母さんは一度だけ言葉を詰まらせたあと、碧くんの顔を見て、ほんの少し決まり悪そうに微笑んだ。


「そう。……優しいのね」
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