One year left -家族ごっこ-
お墓参りのたび、いつも先回りするようにそこにあった、萩の花。


「毎年供えていたのは、お母さんだったんだね」


私の言葉に、お母さんは小さく頷く。


「そうよ。でも、お墓参りは今年で最後。雅也さんと再婚したから、報告とお別れを言いに来たの」


お墓の前で一人の女性として密やかに自分の人生にけじめをつけた彼女は、ふと、碧くんのほうへと視線を向け、どこか潔い、引き締まった笑みを口元に浮かべる。


「碧くん、私がここへ来たことは雅也さんには内緒にしてくれるかしら。そのかわり、あなたたち二人が来たことも、見なかったことにするわ」


その綺麗な瞳のなかに引かれた、冷めた境界線。


彼女はそれを隠そうともせず、手首の小さな腕時計へと視線を落とした。


「あらやだ、美容院に遅れちゃう。私、そろそろ行くわね。午後から、雅也さんとデートなのよ」


嬉しそうな微笑みをその表情に満たしたまま、お母さんは風のように霊園を去っていった。


じっと彼女の後ろ姿を見送っていた碧くんが、私の顔を覗き込むようにして「……大丈夫か?」と気遣うような声で問いかけてくる。
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