One year left -家族ごっこ-
桜並木を完全に通り抜け、交通量の多い街の大通りへと出た。


広い背中の後ろで、流れていく街のオレンジ色の景色をぼんやりと眺めていた。


「……初めて、」


不意に、前を向いたままの碧くんが口を開く。


けれど、ちょうどそのとき強い突風が吹き抜けて、彼の声の後半はアスファルトの騒音にかき消されてしまった。


「なんか言った?」


背中に向かって声をかけると、自転車が少しだけスピードを落とした。


「初めて、誰かを綺麗だと思った」


「どういうこと?」


碧くんの口から出た言葉の並びが、どうしても脳内で結びつかなくて、私は小さく首をかしげた。


「あんたのダンス、綺麗だった」


嘘偽りのない声音(こわね)で、彼が呟く。


今までの彼からは想像もつかない言葉に、素直に喜ぶどころか、かえって強い不信感を抱いてしまった。


私をからかってばかりの男だ。


警戒心を解いて、また何か新しい意地悪でも企んでいるのかもしれない。


だから、余計な詮索はしない。


「ありがとう」


それだけ返しておいた。


それ以上、一言も言葉を交わすことなく、夕暮れの街を走り抜けて目的地のサイゼリヤへと到着した。
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