One year left -家族ごっこ-
体力は完全に奪われていた。


しばらくして解放された時には、碧くんの広い胸へと力なく倒れ込んでいた。


静寂のなかで、二人の荒い呼吸の音だけが激しく重なり合う。


ふらつきながら、やっとの思いで彼から身体を離した。


「……私の、勝ちだよ」


捨て台詞を吐いて、濡れた口元を手の甲でぐっと拭う。


こんな無様な姿であっても、勝ちは勝ちだ。


「早く帰ろう」 


「この状態で、帰れると思うか?」


碧くんはベンチに背を預けたまま、どこまでも傲慢に不敵な姿勢で私を見上げてくる。


その低く濁った視線は、股の間に残された彼の熱い塊を、的確に示していた。


「……じゃあ、おさまったら帰ってきて」


これ以上ここにいたら、本当に立ち上がれなくなる。


逃げ出すようにして彼に背を向けた。


すっかり力を失ってもつれる脚を、気力だけで必死に動かし、暗い夜道を一人で家へと戻る。


扉を開けた家の中は真っ暗で、しんと不気味に静まり返っていた。


お母さんを起こさないよう極力物音を立てないで、急いでお風呂場へと駆け込む。


シャワーでどれだけ強く洗い流しても、唇に残る熱だけが、どうしても消えてくれなかった。


それからの記憶はひどく曖昧で、どうやってベッドに入ったのかも覚えていない。


そして、重たい瞼を開けた翌朝。


差し込んできた澄んだ朝の光のなかで、自分が完全に寝坊したことに気づいた。
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