One year left -家族ごっこ-
長めの黒髪。


碧くんほどではないけれど、高い身長。


誰かが“あの人、留年したらしいよ”と囁いていたのを思い出す。


何か反応するのは悪い気がした。


私は知らないふりを選び、またプリントに視線戻す。


「なにしてんの?」


声をかけられて振り返った。


「課題です」


「家でやんないの?」


「五時からバイトで、それまで暇なので」


彼は自分の机を探り、くしゃついたプリントを引っ張り出した。


「じゃあ、俺もやってこうかな」


そう言って、彼は私の真隣の席に椅子を引いた。


硬い音が響く。


知り合いでもないのに、どうしてわざわざ隣に来るんだろう。


すぐ傍から伝わってくる知らない男子の体温に、心がかすかにざわつく。


「俺も五時からバイトだから」


困惑する私を見て、彼は人懐っこくニッと笑った。


頬に、小さくえくぼが窪む。


可愛い顔……


そう思った瞬間、私の脳裏にあの何を考えているか読めない琥珀色の瞳が、一瞬だけ掠めていった。
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