One year left -家族ごっこ-
「――さて、やるか」


彼は手首に巻いていた黒いゴムを外すと、長い黒髪を指先で無造作にすくい上げ、ハーフアップにまとめていく。


髪が上がったことで、剥き出しになった横顔が視界に入った。


可愛い顔立ちには少し不釣り合いな、骨張った太い首筋。


急に異性としての存在を突きつけられたような気がして、慌てて視線を逸らした。


胸の鼓動が、ほんの少しだけ速度を上げていく。


「あ、髪結ぶのキモい?」


覗き込むようなトーンの声が届き、ペンを握る指先が強張る。


「いえ……」


「邪魔だからさ。勉強する時とかいつも結んでる」


「似合うと思います」


手元のプリントを見つめたまま、それだけの言葉を絞り出した。


「見てないじゃん」


楽しそうな声が、すぐ耳元で揺れる。


「さっき見ました」


反論しながらも、私の鼓膜には、小さな高鳴りが消えずに残り続けていた。
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