One year left -家族ごっこ-
三年生になり、これまでに習った内容の学び直しが始まっている。


復習のはずなのに、頭から抜けている方程式がいくつもあった。


私は焦りを覚えながら、教科書の白い紙面へと視線を滑らせる。


「ここ、間違ってる」


不意に、私のプリントに影が落ちた。


シャープペンシルの先が、私の迷いを透かすように問題文の行を促してくる。


「頭、いいんですか?」


「悪そう?俺、留年してるから」


悪びれもせずに言われ、私は次の言葉を見失ってしまう。


「あ、いえ、そういう意味じゃ……」


慌てて首を振る私を見て、彼は小さく吹き出した。


「少しなら分かるよ。二回目だし」


プリントの余白に、滑らかな文字で数式が美しく書き加えられていく。


驚くほど分かりやすい解説。


彼の指先が動くたび、微かに残る煙草とシトラスが混ざったような匂いが、私の鼻腔を静かに擽(くすぐ)っていった。
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