One year left -家族ごっこ-
「お名前、聞いてもいいですか?」


「安藤 蓮巳(あんどう はすみ)」


女の子のような、どこか響きの綺麗な名前だと思った。


「で、苗字は変わらないの?」


はぐらかしたはずの話題へと、滑らかに引き戻される。


蓮巳さんの穏やかな、けれど逃がしてくれない視線が痛い。


「私、卒業したら家を出るんです。だから、お母さんと話し合って変えないことに決めました」


「別に家を出ても、苗字は関係なくない?」


核心を突く言葉が胸に刺さり、肺が冷たい空気で満たされていくような錯覚に陥る。


本当は、これからもずっと、お父さんと同じ小野のままでいたかった。


苗字を変えてしまったら、天国にいるお父さんが一人ぼっちになってしまうような気がして、それが嫌だった。


けれど、そんな本音は、お母さんにも漏らしたことはない。


「……苗字が変わって、周りにあれこれ反応されるのが嫌だったんです」


感情の起伏を削ぎ落とした微笑を顔に張りつけた。


まっすぐに蓮巳さんの瞳を見つめ、淀みのない声で、偽物の理由を告げた。
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