One year left -家族ごっこ-
「……どうして?」


理由が分からず、私は眉をひそめた。


「なんで? 待ってたらダメなの?」


碧くんは片眉を少し上げ、不思議そうに私を見上げる。


「ちょっと萩花、いつの間に合月くんとそんなに仲良くなったの!?」


「まさか、付き合ってるとかじゃないよね!?」


凛と希歩の甲高い声が、夜の駐輪場に響き渡る。


その声に反応して、遠巻きに見ていた周りの女子生徒たちが騒ぎ始める。


ゾロゾロと距離を詰めてくる気配に、私の頭は一瞬で冷え切る。


これ以上、誰の一言も周りに聞かれてはならない。


「しっ――! 静かにして、お願いだから」


私は反射的に二人の腕を掴むと、周囲の視線を遮るように、自転車の陰にある駐輪場のいちばん深い暗闇へと彼女たちを引きずり込んだ。


碧くんのサドルの真横、誰も近づけない四人だけの狭い空間を作る。


二人の顔に、限界まで自分の顔を近づける。


喉を絞るような、必死の囁き声だった。


「義姉弟だよ。有り得ないから」


「彼氏だけど」


碧くんが、平然と有り得ない言葉を投げ落とした。


三人の身体が、一瞬で強張る。


遠くで聞こえる野次馬たちのひそひそ話とは完全に切り離されたこの狭い闇の中で、私たちの空気だけが完全に凍りついた。


「ちょっと、何言って……!」 


私は焦りで頭が真っ白になり、彼のカーディガンの裾を強く引っ張った。


けれど、碧くんの身体は、微動だにしない。


「この前、あんなことしてきたのに。あんたは付き合ってもない男に、あんなことするの?」


琥珀色の瞳が、暗闇の中で愉しげに光る。


あの夜の、碧くんの熱。


噛み付いた耳たぶの硬さ。


奪い尽くされた息。 


記憶がフラッシュバックした瞬間、激しい拍動の波が全身を一気に駆け抜けていった。
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