One year left -家族ごっこ-
そこは水仙公園の前だった。


碧は自転車を止め、夜の闇に沈む葉桜のトンネルへと足を踏み入れる。


「どこ行くのよ」


まだ話は終わっていない。


碧くんは長い足でスタスタと先を進んでいく。


置いていかれないよう、私は早足でその背中を追った。


暗い茂みを抜け、広場に出た瞬間。


視界が一気にひらけ、私は言葉を失った。


何本もの大樹が、柔らかな光に照らし出されている。 


頭上を埋め尽くす満開の桜。


夜の闇を押し返すほどに咲き誇る白群(びゃくぐん)の花弁が、眩しいほどの光量を持って浮かび上がっていた。 


息をのむほど幻想的な光景に、視界のすべてが奪われる。


「あんた、夜桜見たことないって言ってだろ?」


碧くんが振り返り、立ち尽くす私を見下ろした。


記憶のピースが、唐突に噛み合う。


先週、サイゼリヤで話をしていた時のことだ。


夜桜の美しさに盛り上がる中で、私だけが見たことがないと言って、みんなを驚かせた。


そんな、他愛のない雑談を。


私の小さな呟きを、この男は覚えていたのだ。
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