アングレカム-Angraecum Leonis-

第九話偶然という宝物




 夏休みというものは始まるまでが遅く感じ過ぎるまでが早く感じるものである。

 夏休みに入り、花火大会まであと少しと迫った今日この頃。ひなはただなんとなく暇だったのでコンビニへとやって来た。

 コンビニに入るだけで外の猛暑の暴力を受けてきただけに中の涼しさの癒しを異様に感じられる。

 流れていた汗がさらに涼しさを際立たせる中、ひなはただなんとなくスイーツコーナーへと歩く。

 その際に見た事のある女の子と遭遇する。

「あれ? あれあれあれ? あれれ? 貴女は? もしや? なおちゃんではでは?」

「あらら、ひなさんやないの。偶然ね」

「そやねー! めっちゃ偶然〜! 会えて嬉しいー!
なおちゃんもなんか買いに来たん?」

「んー、せやねんけど。私はどっちかって言うとなんかお菓子作りたいなぁって思っとんのやけど、何を作ろうかってので悩んでて。家の近くのケーキ屋行ってきたけどなんかちゃうなぁ〜って思って。コンビニとかやと個性的なん置いてるかなって思って」

「ええやん! それ! ひなもなおちゃんの作ったお菓子食べたい!」

「ええよ。けど、その前に何を作るのかを決めないとやなあ」

「なら、これは? マカロン!」

「マカロンは作るのが難しいからなあ……あ、ロールケーキにしよ」

「ロールケーキ作るんならコンビニ来んでも良かったやん!」

「まあまあ。こういうのは気分やん? 実はケーキ屋の時からロールケーキ作ろうか悩んでたし。
ぶっちゃけコンビニは涼しさを求めてきたに過ぎん
それに、ひなさんに会えたんやし豊作もええとこやろ」

「……んまぁ、それはちょっと照れるけど……でもロールケーキも美味しそうやしな!」

「ほなこれからスーパーに買い物行くけど、ひなさんも来る?」

「行く行く! 勿論! 食べたいし! ひなも手伝うよ〜?」

 そう言い、二人はそのまま癒しの空間から再度熱の暴力空間へと舞い戻る。そのままめちゃくちゃな暑さを感じながら近くにあるスーパーへと足を運んだ。

 また涼しさの中癒されながら、彼女らは目的のロールケーキの材料を求めてカゴとカートを押しながらその場所へと足を運ばせる。

「暑いから飲み物も買おうかな」

 なおがそう言い、ひなが適当な飲み物を選ぶ。

「ロールケーキって何味にすんの?普通のやつ?」

「……うーん、そうやね〜〜……ひなさん何味がいい?」

「ひなは、チョコとかでもいいかも!」

「ヨーグルト味に挑戦してみるか」

 飲むヨーグルトを見つめながらなおはそう呟いた。

「ちょ?! なおちゃん!? ひなの意見少しは聞いてやぁ!」

「……おぉ、ごめんごめん。なんやっけ、チ◯コ味?」

「もうそれわざとやろ!? チョコ味やって! 良かったな!? 私らが華のJKで! 男子なら色々アウトやったで?!」

「あぁ、チョコね。流石に男根の味の再現とか無理やろって思うてたところやってん。ごめんごめん」

「誰が好き好んでそんなもん食べるねん……。流石に吐きそうやわ……」

「チョコとヨーグルトの二つでも作りましょか。少し時間かかるかもやけど」

「なら、半分ずつとか、一口交換したりしたら二つとも食べれるな! とりあえずカフェオレとかそこら辺やと味合うし、ええやろ」

 なおはひなの話を聞きながら、スマホを取り出す。
 
「半分こええなぁ。一先ず必要な具材ググって……っと。ふむ。こんなもんか」

 そう言い調べたロールケーキの具材を見ながらなおが適当に必要な材料をカゴに入れて行く。しばらくして、買い物は終わり2人はなおの家へと向かった。

「……おじゃおじゃ? おジャ魔女! お邪魔しまーす!」

「はーい、お邪魔されまーす」

 そのまま台所に行き、ひながなおの母に挨拶を済ましている間にひなはお菓子作りをする際に着るパティシエが着るような服を着て、お菓子作りに必要な材料、そして ボウルなどの必要な道具を粗方出し、作業にあたる。

 ひなもコップに買ってきたカフェオレを注いで、それをなおの横に置き、自分はカフェオレをゴクゴクと一口一口と楽しみながら飲む。

「ングングッ! ゴクンっ! ぷっはぁ〜〜!! うっまぁ!! こりゃ美味いわぁ!! 火照る身体に染み渡るぅ〜!!」

「ビール飲んだオヤジかあんたは」

「ははは! それはおもろい。ところでひなが手伝える事はある?」

「んーっと。とりあえず卵をかき混ぜといて」

「任せて! 作ったるで〜! ひなSPケーキを!!」

「ふっ。なんやそれ」

 一生懸命に材料をかき混ぜるひなの横顔を見ながらなおは小さく笑った。
 今日は本来一人で作って、母と一緒に食べるだけだった。そんな予定だった。

 だがひょんな事から友人とコンビニで出くわし、一緒にお菓子を作り、お菓子を食べる事となった。

 なおはそんな偶然が奇跡のように感じ、ひなと今日出会い、急遽一緒にお菓子を作る事になったそんな今日がとてつもなく大事で大好きな日になっていた。

 いつもより楽しいお菓子作りは、二人でやると楽しくてあっという間に時間が過ぎて行く。
 そしてあっという間に出来上がりの時間を迎える。

 なおの母を加え、2人は出来上がったロールケーキを机に並べて、買ってきたカフェオレを3人分のコップに注ぐ。

「あらあら。今日のはいつもより美味しそうね!」

 なおの母はそう言いながら頬に手を置き、美味しそうにロールケーキを見つめる。

「さてさて。ヨーグルト味がどうなってるのか……ワクワク……」

「当たり前でしょ! ひなとなおちゃんが作ったんですよ! 美味しいにきまってますよ〜! なおちゃんママ食べてください!」

「それもそうね! それじゃあお言葉に甘えて早速いただきましょうか!」

「いただきまーす!」

 外の暑さとお菓子作りの労働を忘れ、なおとひなは、作ったロールケーキを美味しく頂いた。忘れていたわけじゃない。2人でお菓子作りをする楽しさと、ロールケーキの美味しさに頭から抜けていたのだ。

 ……夏休みもまだ始まったばかり……。

< 10 / 59 >

この作品をシェア

pagetop