アングレカム-Angraecum Leonis-
第十一話独りの寂しさ
夏の日差しを浴びたくないさくらは、外を眺めながらクーラーの効いた部屋でアイスを食べている。
バニラアイスを一口食べ、それを食べながらテレビへと視線を向ける。
暑そうな外ばかり見ていても仕方ない。そう思いながら、チャンネルを変える。しかし今はまだ朝。朝のニュース番組くらいしかほとんどやっていない。しかもどこも夏の暑さについてや、熱中症予防情報などを放送する番組が大半。
暑そうな外を見ているのと違いが無いじゃないか。
仕方ないのでさくらは黙ってテレビを消して、リモコンを机の上に置いて、気がついたら食べ終わっていたアイスをゴミ箱に捨てて立ち上がって部屋へと戻る。
夏休みと言っても予定が無ければただ家にいるだけでつまらない日常が只々続く。
寝起きから少し時間は経ったがさくらはまだ髪もボサボサで、寝巻きからも着替えていなかった。
クーラーの効いた涼しい部屋の中、外から聞こえる蝉の鳴き声を聴きながら夏を感じつつ、さくらは暇ながらにまだ重たい瞼を閉じ、また少し眠りへ堕ちた。
どれ程時間が経ったのだろう。分かりもしない。薄っすらと目を開け、身体の向きを上へと変えて背伸びする。
「んん〜〜っ!!」
朝から他の家族は出掛けていて不在だったが、もうそろそろ帰って来ているだろうか。寝惚けた顔をしながら、ボサボサの髪を軽く手でさわきながら、さくらはリビングへと向かう。
リビングに繋がるドアを開けると家族が居て賑やかになってる気がした。
気がしただけで、開けてみるとそこはシーンと物静かな部屋が無音の中、何かが動く音だけして広がっている。
朝もそうだがいつもより広いような感覚でリビングのテーブルの前に置くソファへと腰掛け、さくらはテーブルの上にある飴を一つ口に含み、コロコロと転がす様に舐め、小さく「うま」と呟きながらテレビをつける。
時間は午後三時になっていた。コロコロと転がしながら舐めるストロベリー味の飴を無言で舐め続けながら再放送のバラエティ番組にチャンネルを変え、観る。
あぁ、なんて退屈なんだろう。そう言えば母や父達は何時に帰ってくると言っていたか。昨日の夜に自分だけを置いて出掛けると言い、夜まで帰って来ないと言っていた気がする。そう言えば晩御飯も食べて来ると言っていた様な気がする。
さくらはぼんやりそう考えながら、そう思い出して行き、はぁ〜〜と深いため息を吐く。
仕方ない。適当にご飯を済ますか。となれば良いのだが、いかんせんさくらは寂しがりだった。このまま一人で居る家の中を過ごし終える事が出来ないでいたのだ。
誰か、友達の中で一緒にご飯を食べに出掛けてくれる人は居ないだろうか……。
そう思い、さくらはスマホを手に取り、LINEを開いて、誰でも良いから誰か居ないかと友達欄から探して行く。
「……んーと……はるかちゃんはそう言えば花火大会前くらいまでお婆ちゃん家に帰ってるらしいでしょ? みうちゃんも同時期くらいまで沖縄に居るらしいし……んで、ゆうかちゃんは今日はバイトって言ってたな……んー、あ、まきちゃんもバイトだ。さくらもなんかバイトしてれば良かったな……」
そう思い出しながら、何も用事があるのか知らない何人かに声を掛けたる。が、全員行けないと返信が寄越される。
家族とご飯に行く者や、友達と出掛けていて、そのままご飯を食べに行く者。
今現在家族と出掛けている者も居れば、家の用事があるからと言う者も居る。
何故さくらが出掛けていない今日に限って皆はこんなにも用があるのか。
さくらはそう思いながら深い溜息を吐く。
すると、途端にスマホがブーっとバイブ音と共に軽く揺れた。
「……りゅうくん……?」
りゅうのすけから「今何してる?」というLINEが届いたのだった。
さくらは、タプタプとメッセージをフリック入力して、それを送信する。
「今何もしてないよ……っと」
すぐにバイブでスマホが揺れ、さくらは即座に反応する。
『なら今から映画観に行こうぜ?』
さくらは数々の友人からの玉砕を経ていたので、最早会えれば誰でもいい気がしていた。そのまま「いいよ」とメッセージを送り返し、適当な集合場所と時間を決めて、数秒固まる。
「……え!? りゅうくんと遊ぶの!? ちょっと待ってよ! 髪の毛ボサボサだし! て言うかブラもまだ付けてないやん! あ、えっと、そうだ! 軽くでもお化粧とかした方がいいよね!? あ、あと服何にしよう……!?」
さくらは大慌てで準備を開始する。今持っている服で、お気に入りかつ自分でもオシャレだと思っている服を選び、カバンに多少のお金を入れた財布やスマホにモバイルバッテリーなどを入れて深呼吸をして家を出る。
「ボォーっとしながらLINE返してたけど、今からりゅうくんと二人きりで会うのか……な、なんだか……き、緊張するな……」
外の暑さのせいなのか、緊張のせいなのか、高揚感からなのか。どれのせいなのか分からないけど、顔が火照る様に紅潮する。
変な汗が流れて来たので、洗面所で顔を洗い、スッキリさせる。簡単な化粧を済ませてさくらは集合場所であるイオンへと向かった。
集合場所であるショッピングモールには家から近かった為十分程度で辿り着いた。
さくらは汗をハンカチで拭いながら飲み物を購入しに向かう。
お茶を買って、さくらはイオンの中にあるフードコートへと向かう。
「……帰り、ここでご飯食べて行こうかな……」
「どうせ一人で食べるんなら、ここで食べた方がマシかも」
さくらは集合場所であってイオンの中のフードコートで、ただ一人ボォーっと棒立ちしていた。
お茶を飲みながらスマホを見る。まだ集合時間には少し早い。
タプタプとスマホを触りながらりゅうのすけを待つ。
りゅうのすけはスマホを触るさくらを見ながら、笑顔で声を掛ける。
「おい、さくちゃん!」
「え! あ、えっと、りゅうくん! こ、こんにちは!」
「どした? なんか表情硬いじゃん。」
りゅうのすけはそう言いながらさくらの頭を優しく撫でた。頭を撫でられたさくらは不思議と心が落ち着き、気が付いたら笑顔になっていた。
「う、ううん! なな、なんでもないよ! と、ところでさ、なんの映画観たいの?」
「んーと、スパイダーマン」
「いいじゃん、行こ行こ!」
りゅうのすけはさくらの隣に歩き、スタコラと映画館へと続く道路を辿る。
さくらは小さい頃に観て以来のスパイダーマンだったので、久しぶりという意味も込めての楽しみもあった。
映画館に着き、映画のチケットを購入。りゅうのすけは続いてチョコレート味のチュロスを三本購入。
一本をさくらへと手渡す。
「え! え! くれるの? あ、ありがとう! あっ、お金払うよね」
「いいよ別に。来てくれたお礼だから。それにほらそろそろ映画始まるし」
りゅうのすけはそう言い早歩きでさくらと共に映画への入り口へ向かう。従業員にチケットを渡すと半券を返され、通してもらう。
そのまま二人は指定された上映スクリーンへと向かう。
席に座る頃にはりゅうのすけはチュロスの一本を食べ終えている。
幸せそうにチュロスを食べるりゅうのすけを横目にさくらはありがとうといただきますを言いながらチュロスを食べた。
「はむっ、うまっ」
「な? 美味いだろ?」
「……うん、美味しい……」
そうして、映画は始まる……。