アングレカム-Angraecum Leonis-
第十五話夏の飲み会〈嫉妬と勘違い〉
飲み会という名の高校生のふざけ合いやお喋りの集いはスタートをしてから間もなくしてガヤガヤと騒がしくなる。
「おい!肉肉! 牛肉もっと追加や!」
せいやが肉をすき焼き鍋に入れながら興奮気味にかずきに伝える。
「はいはい、待て待て」
「誰やぁ! 私の育てた牛肉盗ったん」
なおが辺りを見渡しながら、肉を探しつつ皆にそう聞く。
「あ、ごめん私かも」
ひなが受け皿に入れた牛肉を食べる前にストップ。申し訳なさそうになおの顔を覗く。
「別にいいよ〜! もっと食べて食べて〜」
「いや、いいんかい」
ひなはなおにツッコミつつ牛肉を食べる。
「ちょっと、この謎のドリンク誰が入れたん!?」
「ひろあきがトイレ行ってる隙にせいやくんとりゅうくんが」
あきせがそうひろあきに教えてあげている。
「……あの二人が入れたんなら絶対やばいやろこれ……」
「ネギうまっ」
「まやちゃん、うちもネギ食べたい〜!」
「いいよ! ほらこれ出来てるよ〜」
「ありがと〜!」
「モグモグ、うまっ」
「るいくんおいしいね」
「ん? あ、りゅうくん。うん、とても美味しい」
「一人で黙々と食べてるからこっち来ちゃった」
「気にしなくていいのに。みんなが楽しそうにしてるとこを見ながら食べるのも粋だよ?」
「そんなもん?」
「そんなもんだよ」
「りゅう、はいこれ」
みうがすき焼き鍋から肉や野菜を取り、りゅうのすけの受け皿に盛ってあげている。
「おう、あんがと。ハグッ、モグモグ。うまっ」
「肉も美味いけど、野菜も美味いな」
「ほんまに! かずきくーん、野菜の追加もお願いしていい〜?」
はるかはたいちに同調しつつ、かずきに注文を頼む。
「ほいほい」
かずきは注文用のパッドを使って次々と具材や料理を追加注文して行く。
お酒を飲んでもないのに、皆はその場の雰囲気のせいなのか、どこか酔っているかの様に皆のテンションは上がっていき、それぞれのトークに盛り上がりを見せる。
「ここめっちゃクーラー効いてるね。寒くなって来た」
りゅうのすけはそう言いながらちょっと震えている。
「なんで夏にすき焼たべてんのに寒くなんだよ。暑くなってくんだろ普通。さっき俺が来てたシャツで良いなら貸すぞ?」
「かずきくんありがとう〜! あ、俺のシャツ着る?」
「なんでやねん、お前また寒くなるやんけ。ユニフォーム交換やないんやぞ」
「いやぁ、着たいかなって思って。うへへ」
たった数十分で大盛り上がりを見せる飲み会の中に、誰かが一人ある一言を発した。
その一人はさつきだった。
「さーくちゃん! 食べてる?」
「うん! 食べてるよ! お肉美味しいね」
「ホントにね! ほらほら、もっと食べ!」
「おわぁ! ありがとう」
「あ、そう言えばこの前の月曜の夕方六時くらいかな? さくちゃんショッピングモール居った?」
(さっちゃーん、触れちゃう!? 触れちゃうの!?)
まきが勝手にあたふたしている。
「ショッピングモール? 月曜? あー、居たよ」
「やんね! あの時家族と行っててんやけど遠目に見えて見間違いかなって声かけ辛かったんよ」
「そうなんだ」
「横に男の人おったっぽいし、デートかなんかやと余計声掛けんの迷惑かもやしって」
(あぁ、うちも思ってたけど! めっちゃ聞きたかったけど!! しかも相手のその男の人、りゅうくんやし! みうちゃんもここに居るのに、そんな事聞いてええの〜!? さっちゃ〜ん!!)
幸せそうに肉を食しながら、横目に二人の会話を横聞きする。
「あー、あの時一緒に居たのりゅうくんだよ」
(ちょっ! 普通に答えてええの?!)
まきは肉を飲み込み、ジュースを飲み干す。
「あー、そやったの?」
さつきはそう言いながら、ネギを食べる。
「……え? さくちゃん、りゅうくんとデートしてたん?」
みうの声がどこか低く聞こえる。なんだろう、怒っているのだろうか?
どこか不機嫌な様子が窺える。
「……んへ?」
さくらはその反応にわけがわからないまま橋を止める。
(おぁー!? 多分これバチバチ起こるやつかな……? で、でも……みうちゃんもりゅうくん好きなだけで、付き合ってるってわけやないからなぁ……)
「は? デートじゃねーよ。お互い暇だったから適当に会ってただけだわ。誤解招く言い方すんなクズが」
りゅうのすけはそう言いながら、りんごジュースを飲む。
「……へぇ」
(……ん? ていう事は二人は付き合ってなくて? 普通に遊んでただけなのかな? うーん、分からんけどとりあえず私は飲み会楽しもっと)
まきは思考を改めて放棄して、ゆうかの隣に向かう。
その時さくらはなんとなく、今のみうに対して恐怖を感じていた。元々さくらはみうがりゅうのすけに対して好意を抱いていた事に関しては知らなかった。
勿論今も知らない。だからこそなんであんな不機嫌そうな雰囲気を醸し出すのかがあまり分からなかった。
もしかして好きなのかなと一瞬考えはした。
ただ、だからと言って普通に遊んでただけで、しかもりゅうのすけとみうは付き合っているわけではない事は知っているので怒られる意図が無い、と自己完結しさくらはそのままさつきと適当に話しながらすき焼を食べ続けた。
程なくして、約二時間程のすき焼食べ放題の高校生達の宴会という名の集いは終了を迎えようと会計の時間が訪れようとしている。
さくらは先にトイレを済まそうとトイレに行こうとしたその時、みうが背後から声をかけて来た。
「……さくちゃんちょっと」
「……ん? なに? みうちゃんどうしたの?」
まだどこか不機嫌そうだ。
「さくちゃんってりゅうの事、好きなの?」
「……すき……? まぁ、すきかな」
さくらの中ではあくまでも友人として、人としてという意図であった。
「……そう。分かった」
みうはそれだけを言い残し、皆の元へと戻って行った。さくらはそそくさトイレへと急いで行き、すぐに用を足して皆の元へと戻った。
こうして男女数人のはしゃぎたい集いは会計を済まし、外で軽く駄弁った後すぐに解散を迎えた。
一部の人達の心のモヤモヤを残したまま。