アングレカム-Angraecum Leonis-

第十六話花火の造り方




 暑い陽射しを受けながら歩く若者がそこに居た。
 彼の名はひろあきという。
 ひろあきは、なおというクラスメイトの女の子と、るいというクラスメイトの男の子の二人を引き連れ、ある場所へと向かっている。

 知り合いの花火職人の下だ。
 ひろあきがLINEで今日はその予定があると告げると何故かなおがついてきて、なおがるいを連れて来た。

 ひろあきはどうせ止めたところで聞きはしないだろうと諦め、溜息を吐きながら二人を花火職人の元へと連れて行く。

 るいに関しては興味本位だけだったが。

 なおは完全に自分の作りたいものを作る気でいそうで、ひろあきは不安がっている。

 なんでもいいが、それを花火職人の人が許してくれるわけがない。花火なんてひと玉作り上げるのにそうとうなお金がかかる。

 自分のオリジナル玉を作らせて頂けるだけでも運が良いというものだ。

 作る、というよりただどんな花火にしたいかのデザインを相手に教えるだけで、ひろあき自身は花火を作るところを見学する事になる。

 それについては素人であるひろあきが下手なものを作るよりも職人に作ってもらう方が良いだろう。というひろあき本人も納得の上での話。

 特に本人は花火職人になりたい訳でも無いので、るい同様興味本位で受けた話でしかない。

 ただ、なおはどんな花火にしようかの話について一人で勝手に盛り上がっている。

「街の夜空にドカンっとドデカい魔法陣を放出させるのもアリだけどなぁ〜! 魔神召喚すんの! それか錬成陣? なんの錬成陣にしようかなぁ〜……賢者の石の錬成陣でも造っちゃう?」

「それだとこの街の人達が賢者の石になっちゃうよ……」

「るいくん、それはハガレンの話だろ〜。と言うか必要な物材やらを集めないと錬成はそもそも出来ないからなぁ……。あ、でもそれだと魔法陣も生贄を用意しないと……あ、生贄は花火を打ち上げたとこでもいっかな。そしたら、錬成陣もそうすりゃいいか? 人の死体っぽくマネキン置いといたらいいかな」

「……実現しないとは言え、この人とんでもないこと言ってるよ……」

 ひろあきは苦笑しながら、るいの顔を覗く。

「そして、自分が提供したデザインで打ち上げる事も当然としてる……」

 るいはなおの当たり前の精神に凄さすら感じていた。

「いやぁー! ワクワクするねえ!」

 なおはそう言いながら、お茶を飲み顔を輝かす。

「そ、そやね……」

 ひろあきは苦笑し続けながらそう返事する。
 そうしてひろあきの家から自転車で片道二十分〜三十分程の距離にある花火職人の家へと向かう。

 事前にひろあきの方から、当日見学者が自分の他に二人増える事は連絡済みである。
 そう連絡したら、別にいいよという二つ返事で了承してくれたので、そのまま、なおとるいを連れて行く事となった。

 花火職人のひろゆきという男性の家へと辿り着き、インターホンを押ししばらくしたら出てきたひろゆきの手招きの元近くにある作業場へと赴く。

 作業場に着き、ひろゆきからひろあき達は簡単な説明を受ける。

「はい、どうも。花火職人やらせてもらってます、ひろゆきって言います。よろしくね。……えっとね。とりあえず花火って、様々な火薬とか炎色剤と言われるものを調合して作られるんよ。ここの作業が、どの工程よりも一番注意深く作業が行われるのね」

 ひろゆきは徐にスマホを取り出し、スマホの写真の中からあった、炎色剤の写真を彼らに見せ、説明を再開する。

「色は、赤、緑、青、黄色、紫、銀ってあって。赤はストロンチウム、緑はバリウム、青は銅の化合物、黄色はナトリウム、紫はカリウム、銀はアルミニウムの粉末……。てな感じいろんな化学物質を使ってて、非常にキケンな作業でもあります。細かい事は覚えなくてもいいんだけど、ただ危険って事は注意深く頭ん中に叩き込んどいて。どれも扱い方を間違えると一発で全部おじゃん。だから花火師って、ロマンチストで神経質なんだよ。」

「……へ、へぇ、なんだか難しそうだけど……凄いなぁ……」

 ひろあきはそう言い唾液を飲む。

「なんかストロンチウムとか、カリウムとか。それだけでなんだかそれっぽくてテンション上がるな」

 なおは相変わらず興奮していた。
 るいは黙々とメモを取っていた。

「んで、その次に星作り。星って言っても、惑星作るとかそんな規模の話じゃないからね。俺ら花火職人っつっても、ドラえもんじゃないから」

 場に少し笑いを起こしながらひろゆきは説明を続ける。

「星は花火を構成する上でも最も重要な位置を占めてて、まぁ、実際に星を太らせて行くには……えっと、あった。この写真見て。この“星掛け器”ってのを使ってるんよね。あ、星って呼ばれるのがこの写真ね」

「ほおほお」

 なおは興味深そうに写真を覗く。

「へぇ、花火の元みたいなものかな? こうなってんだ」

 るいはそう言いながら、メモを取り続ける。

「本やネットである程度調べてはきたから、また後でその工程を見れるのが楽しみやな」

 ひろあきはそう言い水を飲み楽しみそうに微笑む。
 
「そうだな。本やネットでは書いてない、見られないような、いやYouTubeとかで観れるんかな? まぁ、何にしてもネットや本とかで観るだけ、読むだけってよりも現場で見た方が色々学べるってもんだ。楽しみにしてもらうのは結構だが、安全にだけ気をつけてくれよな?」

「はーい!」

 三人は声を揃えて返事をする。

「一玉の花火ってのは、人の人生みたいなもんだ。中に詰める色で、夜空の形が変わる」

 その後細かい説明などを簡単に受け、その説明が終わった後になおはひろゆきへと声を掛ける。

「ねえねえ、ひろゆきさん。話で聞いたところひろあきさんがデザインした花火を作るって話らしいじゃないですか」

「……ん? あぁ、そうだよ?」

「あの……私の分、もしくはひろあきさんと合同デザインとかってダメですかね?」

「んー? うーん……なら君の分も作ろうか?」

「え!? いいんですか!」
 
「なに、打ち上げる予定の花火をもう1つ削ったらいいだけの話さ。その一つを君のデザインで打ち上げよう」

「ウッヒョイ! やったぜぇ!!」

 ガッツポーズをし、ルンルン気分でひろあき達の下へと帰って来るなおを見ながら、ひろあきとるいは「本当にやった。この人は本当に恐ろしい人だ」と心の中で思いながら、その後花火を作る工程を見学して、なおとひろあきのデザインを描いた紙をひろゆきへと渡し、三人は帰宅路を自転車で走る。

「なおちゃん強運過ぎるやろ……」

 るいは苦笑しながら、なおの凄さに圧倒されていた。

「いえい! よかったー、家で事前にデザインしてきといて」

「え、家で作って来てたん? 事前準備が過ぎるやろ……。そんで、どんなデザインにしたん?」

 ひろあきは夕日と共に吹き向かう風を浴びながらなおに問う。

「……んふふ、秘密〜」

「なんだそれ」

 夏の暑い夕差しを浴びながら三人は花火の話に盛り上がりながら家への道路を自転車を押しながら歩いた。

 
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