アングレカム-Angraecum Leonis-

第八話花火大会1日目〈なおとかずき〉




 河川敷の下にある川の近くにて立ち並ぶ屋台を見ながらかずきとなおは歩いていた。

「んー! っと。とりあえずなんか食うか?」

「……う、うん、そうだね。なお、イカ焼き食べたい」

「いいね、イカ焼き。お、丁度近くにあるやん。行こっか」

「イェーイ!」

「おっちゃん! イカ焼き2本!」
 
「私は小さいので良いよ」

「じゃ、俺はその中くらいのサイズので」

「あいよ! ありがとね〜! 若いカップルかい? 花火大会楽しんでな!」

「ははは、ありがとうございます」

(カップル……やっぱそう見えちゃうのかな……。彼は何も気にしてないの……? 私とそう言う風に見られても気にならないの……? いやいや、そんな事よりお祭り楽しまないと……!)
「ウヘヘ、いただきます。んー、お祭に来たって感じするぅ」

「祭によくあるしな。たこ焼きとか、わたあめとかも祭に来た感じするわ」

「分かる分かる」

 そのまま二人はイカ焼きの屋台を後にして、スーパーボールすくいを楽しみ、適当なアニメキャラの仮面を手に入れてそれをつけながらまた適当な屋台を回った。

 タコ焼きを買いに行き、なおが少食なため、半分ずつを二人で分け、かずきが熱がりながら頬張る姿を見てなおが笑い掛ける。

 なおも食べようとしたらやはり熱く、かずきもそれを見て笑い、なおの肩を軽く叩く。

「ふぉっふぉっ!」

「ほらなぁ? 熱いやろ? はは! ほら、お茶で口ん中冷やし?」

「……ふぉ、あ、あいやと……」

 タコ焼きを食べ終え、金魚すくいを堪能しに向かう。しかひ二人とも全然捕れないまま終わる。

 二人共全然下手くそじゃねえかと笑い合いながら立ち上がって、次へ行こうとした。

 その時なおが足を引っ掛け、バランスを崩し、全面へ倒れこもうとしてしまう。
 かずきは即座になおを抱え込むように彼女を支える。

「うぉっ……と。大丈夫?」

「お……うん……大丈夫。ありがとう」

 高鳴る胸を抑えながら、なおはかずきから離され、体制を整える。

(お、お、うぉおぉっ!! ヤベェってやめろってこういうハプニングはラブコメだけで良いんだって!!)

 ドキドキと鳴る胸を抑えながら静かに深呼吸をした。さも、転けそうになった事への驚愕で深呼吸をするかのように誤魔化しながら。

「本当に大丈夫か? びっくりしたよな。そりゃあ、いきなり転けそうになったら誰だって驚くよ」

「……う、うん」

「食って動いてばっかで喉乾いてきたかな。もうお茶無くなってたし。なおちゃんも新しい飲み物買いに行く?」

「……う、うん、そうするよ」

(やめろ……そんな優しい顔して微笑むな……これじゃあ、まるで……まるで……私がラブコメのヒロインみたいじゃないか……ダメだ……もう嫌なんだ……うぅ……クッソ……この感情ほんと毎度嫌になるよ……)

 二人は歩いて少し離れたところにあった自動販売機へと歩いた。

 二人ともお茶を購入し、河川敷の階段へと座り、休憩を図った。

 なおは今も止まらない胸の鼓動を隠しながら、まともに見れないかずきの顔を横目に静かにお茶を口に含んだ。

「スーパーボールは上手く3個くらい取れたのに、金魚は全然ダメだったなぁ」

「ほんどだよ。せめて一匹くらいは釣れると思ったんだけどな」

「なんか違いがあるんかな?」

「さ、さぁ……生物か、無機物かの違いくらいしか……」

 少し薄暗くなってきた空を見ながらなおはそう答え、まだ少しだけこの時間が続いてくれないかと思ってしまった。

 自分の中でこの感情に名前をつける事なんて出来やしないけど、ただ無性に楽しく、嬉しい時間には違いは無かった。

 この人と居ると落ち着く。楽しい。そう思うと同時に自分の感情に嘘をつき、なおは心を落ち着かせる。

 花火が打ち上がるまで後1時間くらい。

 なおは残り少ないこの時間を苦しくなる胸と共に楽しんだ。

 この時間が終わるとこの人もう二度と会えなくなるかも知れない。
 そんな事も無いはずなのにそう考えてしまい、なおは怖くなってしまう。

 またこの人と一緒の時間を過ごしたいな。

 なおは残りの時間の間ずっとそう考えていた。

「あ、あの……っ!」

 なおはそう言い背中を向けて前を歩くかずきへ声を届けた。
< 26 / 59 >

この作品をシェア

pagetop