アングレカム-Angraecum Leonis-

第十三話花火大会1日目〈みうとりゅうのすけ〉



 河川敷を下に降り、りゅうのすけは直様たこ焼きの屋台を探していた。

 それを見つめながら微笑ましくりゅうのすけを見るみうは心の中で、色々と考えている模様。

(……りゅう、相変わらずだな。私が今日告白するとかって考えてないんだろうな……)

「お! たこ焼き屋発言! おっちゃん! たこ焼き一つちょーだい!」

「おうよ! にいちゃん男前だねぇ! 一個オマケしといてやるよ!」

「え! マジ? さっすが!!」

(……りゅうってほんとたこ焼き食べに来たんだな。たこ焼きに対する熱が凄い……)

「はいよ、熱いから気をつけな!」

「ありがと! いただきます! ふうふう! あふっ、うま! うま! ふうふう!」

 りゅうのすけはそのまま歩きながらたこ焼きを食す。しばらく歩くと二件目のたこ焼きの屋台を見つける。

「お兄さん! たこ焼き一つ下さいな!」

「あいよ!」

(え……まさか……たこ焼きのハシゴしてる……!?)

「はふはふ! うまぁ!」

 りゅうのすけはそのまま3件目、4件目と屋台を見つけ次第たこ焼きを購入し続け、結局10件くらいのたこ焼きの屋台をハシゴしていた。

 流石に苦笑し、(どんだけたこ焼き好きなんだよ)と心の中でツッコむみうがいた事をりゅうのすけは知らなかった。そもそもみうの存在を忘れていた。

 11件目になる頃には、りゅうのすけは完全にたこ焼きの事しか考えていない様子だった。いいや、5件目から。いやこれは本当に最初からたこ焼きしか頭に無かったのだろう。

 みうは、みうでなんとかりゅうのすけについて行く。途中お腹が空いたので自分も一パックだけたこ焼きを購入して、それを黙々と食べる事にする。

 外はカリッと焼き上げられ、中身はトロリとしていて非常に美味しいたこ焼きだった。
 口の中が火傷しそうだったので、思わず冷えた水のペットボトルを口に含む。

「ふぅ、あっつ……」

 食べ終えて、今日、それか明日にはりゅうのすけに想いを告げなければ。そう考えながら、りゅうのすけの後ろを歩く。

 凄い人混みだが、背の高いりゅうのすけを見失う事は無かった。ずっと目を離さなかったから。ずっとタイミングを伺っていたから。

 そもそも自分はいつからりゅうのすけの事を想っていたのだろうか。そう考えながらトボトボと歩く。

(中学生……? いや、小学生……ではないか。なら幼稚園……ううん、分かんないや……気がついたら目の前にりゅうが居て、気がついたらずっとりゅうの事を見てて、ずっと考えるようになってたし……いつからとかもう分かんないや……)

 もう少し時間が経った頃には、空には円型に広がる火の花が打ち上がる。

(一時的に非日常的になるこの空の下だと、いつもより自分を出せるのかな。いつもより、勇気を出せるのかな)

 最後のたこ焼きを食べ、ゆっくり噛みながらりゅうのすけの方を見る。

 りゅうのすけは、何かを見つけて人混みを避けながら歩いている。(なに?)と思いながらみうもついて行く。

「待て」

 そこに居たのは、男二人に絡まれるさくらだった。
 振り向くさくらを横切りりゅうのすけは、男達の顔を見ながら、さくらの肩に腕を回した。

「おいおい、さくら。こんなとこに居たのか」

「りゅ、りゅうくん……? なになに……?」

「あ、どうも。彼女が世話になったようで。ありがとうございます」

「あぁ? なんやお前。急に出て来やがって!」
 
「この姉ちゃんは俺らとこれから花火大会を楽しむんや。彼氏かなんか知らんけど、途中から来たやつに用は無いんや! 帰った帰った!」

「……いやいや。そうは行きませんよ。俺らさっきまではぐれちゃってたんですけど、デート中だったんで……」

「ほな、次は俺らとデートするんやとよ」

「ほらほら、お前もしつこいぞ。しつこい男は嫌われるぞ〜〜?」

「んー、もういいや。めんどくさい。さくら、行くぞ」

「えっ、えっ……」
 
「あ、おいこら! 勝手に行こうとするなや!」

「おい、兄ちゃん。この子はもう俺らとデートするって……」

「……あ? しつこいのはどっちや。俺の女に手を出そうとしてたのをこっちは見過ごしてやろうって言ってるんや。サッサと消えろや。それか警察呼ぶか?」

「あぁ? 警察? 呼べるもんなら呼んでみろや。ほら早よ呼べや!!」

「……うるさいな。威勢だけは良いクズが」

「なんやとコラ! なめとるんか! 喧嘩売ってるんなら買ったるぞゴラァ!!」

「いい歳して喧嘩とかダッサ。お前ら中学生か?」

「んだと……?! ナメんなやクソガキゴラァッ!!」

 男の一人はそう言いりゅうのすけの胸ぐらを掴み、叫ぶようにそう言う。近くに居るさくらは恐怖で怯えている。

「アンタら良い歳した大人か? 大人がガキ殴ったらどうなるのか知ってんのかぁ? しかも見ろよ。周りにこんだけ人居るんだぞ? やりたきゃやれや。ただし証人はこれだけいる。お前らに逃げ場ねぇぞ? いいのか?」

 そう言いりゅうのすけはまた続ける。

「……周りの皆さーん、良ければスマホカメラで動画撮って貰いますか? 決定的な証拠として、警察に提出したいので」

 りゅうのすけのその言葉に周りにいた何人かの人々は一斉にスマートフォンを取り出して、動画を撮り始めた。

 その様子を見て、男の一人はりゅうのすけの胸ぐらを離し、後退る。

 自分の立場の悪さを理解したのか、舌打ちだけして、二人の男はその場を去って行った。周りの人々からの拍手喝采を浴びながらりゅうのすけは「ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」と一礼。

 近くに居た子連れの奥さんに「大丈夫?」と声を掛けられ、にこやかな笑顔で「全然大丈夫ですよ、ご心配ありがとうございます」と答える。
 奥さんはりゅうのすけのイケメンにこやかフェイスに惚れかけてしまう。

「イ、イケメン……」

 そのままさくらの肩を持ち、屋台の隅っこにある河川敷の階段の真ん中辺りでさくらを座らせ、りゅうのすけ自身もその隣に座る。

「おい、お前。アイツらについて行こうとしたろ」

「……え、あ……う、うん」

「なんでついて行こうとしたのか知らんけど、今後こういう事は二度とするな。あんなヤツらに付いて行ってみろ? さくちゃんがしたくもない事させられるかも知れんぞ」

「……ご、ごめんなさい……」

「謝んなくていいよ。俺の方こそ勝手に呼び捨てにしたり、彼女にしたりごめんな。友達として助けるより都合良いと思ったんだよ」

「……う、ううん、それは全然……! あ、ありがとうね、りゅうくん」

「おう。もう二度とすんなよ? 俺がちょっとおちょくっただけであの反応だからな? 怖かったろ?」

「う、うん……怖かった……」

「相手がどんな人だろうと、知らないヤツには付いて行こうとするなよ。小学校で習ったろ。知らない人についてっちゃダメだって」

「……うん、ごめん」

「……よし、これでこの話は終わり! とりあえずこのたこ焼き食って落ち着け」

「……なんでたこ焼き……?」

「さっき十一件くらいハシゴしてきてん」

「本当にたこ焼き食べに来たの!?」

「当たり前だろぉ?」

 二人がそう話していると、少し離れたところでせいじが二人を見つけて近付いて来ながら声を掛けてくる。

「あれ、さくちゃんここおったん? りゅうくんと一緒やったんか。ごめんな、金魚すくいとヨーヨーすくいに夢中になってもてた」

「ううん! 全然大丈夫だよ!」

「あれ、てかみぃちゃんどこ?」

 そう言えばと思い出して、りゅうのすけは辺りを見渡すとせいじより離れた場所にみうは居た。

「おう、そこに居たのか」

「うん」

 短く返された返事に、何処か覇気が感じられない。
 時刻はもう既に午後七時半を回っている。辺りはもうほとんど暗くなって来ている。
 屋台の路地裏という位置もあり、みうがなんとなく笑っている事は分かるが、胸を苦しませながら必死になって出している笑顔だという事は誰も分からなかった。

 心で泣きながら、必死に作り笑顔で耐えている。

(…………あぁ…………あぁああ…………あああぁあぁ……)
 
「そろそろみんなで花火見るとこ行く?」

「そうやね。もう良い時間やし。ゆっくり歩いて行ったら丁度いい時間に着きそう」

 りゅうのすけとせいじがそう言い合い、動き始める。

「あ、ごめん、ちょっと待ってて。今たこ焼き食べ終えたからこれ捨てて来る」

「歩きながらでいいよ。どっかゴミ箱あるやろし」

「そっか。そだね。わかった」

 りゅうのすけにそう言われて、どこか嬉しそうな声色でさくらは答える。
 そうして、りゅうのすけ、せいじ、さくら、みうの四人はみんなで花火を見る予定地へと歩いて向かった。

 道中、締め付けられる胸と声を抑えながらみうは泣いた。
< 31 / 59 >

この作品をシェア

pagetop