アングレカム-Angraecum Leonis-
第十五話花火大会1日目〈はるかとたいち・成就〉
二日間開催される花火大会の一日目というのは大抵前夜祭的賑わいがあるものである。
正直本番の花火は明日なのはみんな分かっている。なのに出来てしまう人集り。
明日程では無いのだろうが、そこそこに多い数の人数が見える。
「はるか、逸れんなよ」
たいちは手を伸ばして、はるかの手を繋ぐ。
そこから感じられる体温が強く意識される。
まるで全神経が掌に集結するかの様に。
「あ、待って。たいちくん……」
繋がれた手は、人集りで一瞬にして離されてしまう。
その瞬間、世界から断絶された様な気分になり、はるかの脚はぴたりと動きを止めてしまう。
「待って。私を置いていかないで」
人集りから聞こえる喧騒が辺りの空気を覆う。
夜なのに人口密度だからなのかいつもより暑く感じてジンワリと汗をかく。
目の前もジンワリと滲んで来る。
その瞬間。
再度手を掴まれる。
「ごめん、俺が逸れんなって言ったのに」
少し肩で息をするたいちの顔が見えた。
「……ううん。謝らんといて?」
「泣いてるやん」
「……泣いてへんよ」
「……そう? じゃ、早く行こか。早く行かんと、花火が打ち上がってまう」
「うん。あ、あっちの方が人少ないで」
「いや、こっちに人少なくて、花火が見易い場所があるねん。俺の事信じて、ついて来てや」
「……うん。分かった」
たいちに優しく包まれた手を見つめながらはるかはゆっくり歩き出す。
しばらくして、たいちの指定した場所に辿り着き近くにあったベンチに座って二人して一息つく。
「ふぅ。なんやかんやで着いたな」
「そうやね」
すると、途端に打ち上げ花火が何も無い真っ暗闇な空で円を描き、叫ぶ様に爆発する。
二人の顔を明るく照らし、はるかは握っていた、たいちの掌を強く握る。
「……ん? はるか?」
はるかはゆっくりとたいちの表情を見つめる様に振り向く。
「好き」
そこから出たのはシンプルで短い言葉だった。
「……え? え、あ、お、え、ありがと……?」
「ふふ、動揺し過ぎ。付き合ってください」
「……よろしくお願いします」
「うん! ありがとうございます……。よろしくお願いします。……嘘みたい。私、幸せ過ぎて死にそう」
目頭に浮かぶ水溜りが大きく溢れる様に流れ出す。
「付き合った初日に死ぬとかやめてや」
「んふふ、せやね」
「はるか、俺も好きやで」
「……っっ……あ、ありがと……」