アングレカム-Angraecum Leonis-
第十七話花火大会1日目〈ひなとせいや〉
もう少しで花火の時間。あらゆる屋台を堪能した後、ひなとせいやは、少し早めだが、集合場所へと向かおうかと話をしていた。
そんな時、せいやが誰かと肩をぶつけてしまい、せいやは即座に反応して謝罪をする。
「おぉっと! すみません! 大丈夫でっか〜?」
相手はイカツイ顔をした30代半ばくらいのおっさんだった。
そのおっさんは見るからにイライラしている様子に伺える。
「おっと、すんません〜」
せいや自身はめんどくさい事に巻き込まれたくない為に穏便に事を進めようとしている。その為にも即座に謝罪したのだ。
これだけ人混みにまみれながら歩いていたら人にぶつかるのも仕方がない事。
謝罪をして、せいやはひなと共にそのまま集合場所へと向かおうとおっさんに背を向ける。
おっさんは舌打ちをしながらせいやの肩を掴み、疑問符を浮かべながら自分の方へ振り向くせいやに向かい顔面めがけてパンチを放つ。
「うがっ!?」
突然な事、突然な痛みで頭が混乱しつつもせいやは顔を抑えながらおっさんの方へ姿勢を向ける。
「……な、なんやおっさん! さっき謝ったやろうが!!」
「うっせーんだよクソガキが。大人ナメてんのか?」
目の下辺りを殴られたのだろう。そこら辺りに痛みが走る。痛みと共にイライラも募り、せいやは歯軋りをしながらおっさんを睨む。しかしここだと周りに人が多過ぎる。
おっさんがせいやを殴った瞬間に、辺りの人々は、ビックリしながらその場で円の形を取り繕うように避け始める。
おっさんはそのまま、せいやの胸ぐらを掴み、叫んだ。
「テメェゴラァ!! ガキのくせして調子に乗ってんじゃねえぞ!!」
「……は、はぁ!? なんの事や!!」
せいやはそのままおっさの顔面目掛け、自分の頭をぶつける。せいやの胸ぐらを離し、クラっとしたその隙をついて、膝蹴りをくらわす。
「ハァハァ!!」
「ガッ、ガハッ! クソ!!」
おっさんの突き出した腕をそのまま避け、せいやは鳩尾目掛けて全力で殴る。
「ングッ!!」
「……ハァハァ……俺はあくまでも正当防衛やからな。これ以上はやるつもりは無い……。けど……やるならトコトン殺《や》ったるけどなぁっ!!」
息を切らしながら、流れる汗を拭いながらおっさんを睨み付けた。
おっさんは身体をプルプルと震わせながらせいやの顔を見る。
せいやのその顔には、いつもの優しい笑顔は無かった。まるで今にも暴れそうな猛獣のような顔つきだ。
「せいやくん、今警察呼んだから、ひならはそろそろ行こ」
「……おう。すまんな。」
「いや、ええよ。ひなも最初はビックリしたけどさ。ひなや周りの人らに被害行かんように闘ってたせいやくんカッコ良かったで!」
「……ふ、ふん、まあな」
「まぁ、こんだけ人の集まるところやとあんな変な人もおるもんやて」
「……変? 変な人やと……!? 誰に向かって言ってるんや!!」
「誰って……この状況やとおっさん、アンタしか居らんやろ……ここの人はこのお祭を……花火大会を楽しみにしてて、みんなそれぞれ楽しんでるんや。それが分からんのか? そんな中でこんなアホな事しくさって」
「グヌヌッ!! 女のくせに生意気言いやがって!!」
「女とか男とか関係あらへんわ!! この場で平和に楽しまれんやつは誰であろうとご退場を願い申し上げるわ!!」
「このクソアマがぁー!!」
おっさんがひなに向かって行こうとする際、瞬時にせいやはおっさんの首を掴み、睨みつけながらボソボソと話し始めた。
「……女に手ぇ出すとか、救いようのないおっさんやのぉ……あぁ? これ以上やるんなら、トコトン殺るっつったよなぁ〜? ほら、もう少しで警察さん来てくれるからのぉ。のんびりそこのたこ焼きでも買って待っとけや」
「……グヌヌッッ……!! チクショウ! チクショウ! チクショウチクショウ!! チクショウ!!」
「まったく。祭で喧嘩とか、いつの時代やねん。もう時代は大きく変わってるんや。おっさんは黙って留置所でも行っとけ」
「周りの皆さんすみません……ご迷惑をお掛けしました」
ひなはすかさずに周りの人達に頭を下げて謝罪する。
「いやいや、全然構わないよ。男の子の方も大丈夫かい? 殴られたところ、痛むやろ?」
「いや、まぁ……でもこれくらい大丈夫っすよ!」
「そんな事言わんと! ほら、そこのかき氷屋さんの氷少し分けてもろたから! これをこのナイロン袋に入れて……タオルで巻いて……ほらこれで冷やしとき!」
「あ、すんません!わざわざありがとうございます!」
「警察が来るまで俺らがこの人捕まえとくから、君らはどこかに行こうとしてたんだろ? ほら、子供は早く行った行った!」
「なあに、警察にはウチらの方から説明やらしとくから安心しな!」
「あ、ありがとうございます!」
「何から何まで……すんません!」
「いやいや、びっくりしてたとは言え、ただ見てるだけだった俺らの罪滅ぼしだと思ってよ」
「ほな、お言葉に甘えて……せいやくん早よ行かな遅刻かもやで!」
「それはかずきに怒られる!」
痛む箇所を貰った氷で冷やしながら、せいやとひなは集合場所へと向かう。
そろそろ花火が打ち上がり、夜空に異世界が広がろうとしている。
それを楽しみに、集合場所への道路を走った。