アングレカム-Angraecum Leonis-
第十八話なおとかずき〈告白〉
「あ、あの……っ!」
なおが自分の中の勇気を精一杯振り絞って出した声がそれだった。
背中を向け、前を歩くかずきがこちらを振り向く様が、まるで時がゆっくりと過ぎるように感じられ、なおは、視線を泳がしたまま心の中で更なる勇気を振り絞る為にたった数秒、自分の中で葛藤を繰り広げる。
(……はぁー、はぁー、何やってんだ! 私! クソ、後戻り出来ねえじゃねえか! ……黄昏よりも暗き存在もの、血の流れよりも赤き存在もの、時間ときの流れに埋もれし偉大なる汝の名において、我ここに闇に誓わん、我らが前に立ち塞がりし、全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを……“ドラグ・スレイブ”ゥーー!!)
「……? なおちゃん? どした?」
「……あ、あの……二人で……二人で……花火見たいです……」
「ん、そっか。ちょっと歩き疲れた?」
「あ、え? いや、えっと〜……うん、はい。疲れました……」
(なんだこいつ天然か? もしくは鈍感か? あぁ!? ……いや、いい。これでいいんだ……私のこの感情はこれで……お終いにしよう……)
そんな事を考えながらも、本当に終わりにして良いのかなんて考えも頭の中に過ぎる。
終わりにしたい気持ちと終わりにしたくない気持ち。ふたつの矛盾した気持ちが入り混じる中、なおはかずきの背後を歩く。
(……はぁ、私はどうしたいんだ……自分でも分からないのに……終わりって……何を終わりにしたいんだよ……ったく……。)
少し歩いた先にあったベンチにかずきが座り、なおはその横に静かに座り込む。
「ここも、結構花火が綺麗に見えるとこなんだよ。まぁ、集合場所程じゃあないけどな」
「……ご、ごめんなさい……私のせいで……」
「ん? いやいや! なおちゃんは何も悪くないよ? だからそんなに落ち込まないで。疲れたんなら仕方ないよ。ここで一緒に見よう」
「……あの……ほんとは私……」
そう言いかけた時、なおは言葉に詰まり冷や汗をかく。このまま本当は別に疲れてなんかないと言い、みんなの所に行くのか、それともこの気持ちに終止符を打つのか……。
その声は祭に集う人々の声でかき消されたのか、それともなおの声が小さかったのか、かずきには聞こえていなかったようで、かずきはそのまま夜空を見上げている。
「…………ッッ」
(……このまま……想いを告げるのか……それとも……告げないまま、この時を過ごすのか……)
膝の上で拳を握り、目線を膝から目の前に上げようとする。しかし、顔が重たく感じ、上手く上がらない。
(……ダメだよ……上がらない……)
拳と肩をプルプルと震わせながら、なおは俯く。怖い。今のこの心地良い関係と、楽しい時間が崩れ去るのが怖い。
自分の気持ちや感情に答えや名前はもう既に付いている。だが、それをこの場で吐いてしまって、それを吐いた事でこの関係と時間が、さらなる飛躍を遂げるのか、もしくは崩れ去るのか。二つに一つのこの答えをなおは出せずにいた。
このまま、何も言わずに二人でジッと夜空に浮かぶ火の花を見上げる方が良いのではないか。それとも一言を吐き出して、この人との関係においての飛躍を希望するのか。
何度考えても同じ事がグルグルと頭の中で回転するかのようで気持ちが、悪かった。
「お、打ち上がった」
かずきのその一言で軽くなった頭をスッと上げ、夜空を見る。するとそこには美しくも儚い、円の形を模す火の花が燃えている。
ふゅうぅうぅ〜……ドパアァアァァアァアァンンンン……ッッ!!
その花は風切り音をあげ、空に浮かび上がると何の音も無く一瞬の間消え、次の一瞬で大爆発を広範囲で見せ、暗く落ち込むなおの表情を輝かせ、光る宝石へと進化させた。
あぁ、なんて綺麗なんだ。
あぁ、なんて美しいんだ。
あぁ、なんて儚いんだ。
一年に夏の季節にだけ咲く夜空の異様な花を見て、なおは言葉を発した。
「……好きです……」
「……へ?」
「かずきさん、あなたの事が好きなんです」
「………………………………………………………………」
突然の事で、なんの事かすぐに理解出来なかったが、一瞬で理解して顔を赤面させて、なおの顔を見れずに空を見上げた。
「……ご、ごめんなさい。や、ややっぱり……こ、困るよね……わ、忘れてよ……」
少し泣きそうになってくる。
「……いや、困るって言うか……なんて言うんかな……いや、困ってないよ。んー、いや、ごめん。ちょっとすぐに答え出せないや……ちょっと待っててくれる?」
「……っっ……う、うん……わかった……待ってる……」
花火に照らされたなおの顔はいつも以上に満面の笑みを浮かべていた。