アングレカム-Angraecum Leonis-
第二十話笑顔を絶やさない
花火を見終わり、くうどうとゆうかはかんなの手を繋いで、共に夜道を歩いている。
時々ある街灯に照らされた薄暗いこの世の中をただ一人の光であるかんなと共に2人は帰宅路を辿る。
くうどうはいつまでも迎えに来ないかんなの母親に痺れを切らし、かんなを連れ帰り、保護する事を決めた。
係員のおっちゃんにはワケを話して、もし何かあれば自分も電話番号に連絡してほしいと、電話番号の書いた紙を手渡し、そのままかんなの手を繋いでゆうかと共に帰った。
係員のおっちゃんに、「勝手に連れ帰って、誘拐犯になるかも知れんよ」と言われ、ケラケラと笑いながら「俺が誘拐犯になってでもかんなの笑顔は俺が守ってやるよ」と真っ直ぐな瞳をしながらおっちゃんに向けてそう言った。
「俺、この短時間でかんなの笑顔が好きになっちゃってん。こいつの顔に、悲しい顔をさせたくないんねん。それでもし俺が犯罪者になろうとも、かんなが悲しい顔するくらいなら、別に構わん。人は笑ってへんとダメやろ?」
「……そうか。しかし君の想いは分かるが……そんな勝手が許されるとは……」
「ここに自分のガキ置いて迎えに来ない母親も自分の勝手で生きてんやでな。俺らがどんな勝手しても文句言える立場に無いと思うで」
どこか物悲しい顔をしたくうどうはかんなの元へ歩き「かんな、家来るか?」と和かに聞く。
「……うん、かんな、くーどーの家行く」
「おっけー! ついてこい!」
そのままかんなを連れ帰る事を強行して決めて、流れに任せて家へと連れ帰ってきた。
ゆうかはくうどうの家の隣に住んでいるため、くうどうの母親とも親交が昔からあり、仲が良かった。くうどう一人だと不安だったのもあってゆうかも家へとついて行く事に。
くうどうの家へと帰り着き、玄関からリビングに行き、リビングにいた母親に開口一番、言葉をぶつける。
「母ちゃん、この子の世話見る事になった」
「は!? て、ゆうかちゃん? あらぁ、お久しぶり〜綺麗になったわねぇ〜……ってちゃうちゃう! 誰!? その子どこの子!?」
状況が上手く飲み込めずに混乱しながら、かんなの顔を見る。
かんなの顔を見て、くうどうの母はなんとなく状況を理解し、深呼吸しながらくうどうを見る。
「……世話見る事なったって、あんた何勝手に決めてんの?」
「すまん。この子のかんなって言うねん」
「子供の名前聞いてんじゃ無いのよ。人一人を育てる事がどう言う事か分かってんの? って話をしようとしてんのよ」
「…………俺には分からん、分からんけど、俺はこの子の世話見るって事を決めたんや」
「いっときの感情に流されて物事決めてんじゃないよ。警察とか子供を保護してくれる施設とか色々ある世の中やで? 何もあんたがわざわざ世話しなくたって良いでしょうよ」
「……すまん、ゆうかちゃん。かんなを連れて隣の部屋に行っててくれへんかな?」
「…………わかった」
「かんなちゃん、おねーちゃんと一緒にあっち行ってようか?」
ゆうかがかんなを連れて、部屋を出て、くうどうはすぐさまに土下座をした。
「頼む!! ほっとけへんねん!! 確かに母ちゃんの言う通りいっときの感情に流されてるだけなのかも知れへん……。でもな……あの子、かんなを見つけた時は泣きそうな顔しててさ……。母親と会えない絶望感で精神が崩壊しそうな……そんな顔をしてたんだよ……そんで、祭を一緒に楽しんで、仲良くなって……。……我ながらアホな事言ってるのは重々承知しとる……」
「……あんたの気持ちが分からんとは言わないよ。でもね、人を一人育てる事がどういう事なのか、どれだけ大変なのかが分からないあんたに、私は無責任な事言ってんじゃないって話をしてるの」
「…………俺が育てるよ…………あいつの母親がいつか迎えに来るまで…………」
「……ペット飼うワケじゃ無いんやで? 犬や猫を飼い引き取るって話とはワケが違う。あの子は一人の人間だ。タダの生命《いのち》じゃないんだよ。アンタだって、バカだけど……アホじゃないからこれくらい分かるだろう?」
「…………もう……もう……もうな? かんなに悲しい顔して欲しくないねん…………俺は周りの人間全員に笑ってて欲しいんや……だからいつもふざけにふざけ通してる…………だから……だからな……かんなにも笑って欲しいんや…………」
珍しく涙を流しながらそう言うくうどうを見て、くうどう母は溜息を一つ吐き、くうどうの肩を叩いた。
「……ったく。負けたよ……。分かった! 私も手伝う! これで満足かい?」
「……母さん……あ、ありがとう……ッッ」
そうして、くうどうはかんなの母親が見つかるまでの間、かんなを引き取り、保護する事となった。
ゆうかの母親も隣の家から、くうどうの家へと来て、ゆうかを迎えに来たついでにわけを聞いて、頷いて一言「ウチらも出来る限り協力するわ」と言い、かんなの頭を撫でて「かんなちゃん、よろしくね」と優しく微笑む。
「よ、よろしくね……!」
(はぁん! か、可愛い……!!)
くうどうとゆうかの二人の母親はかんなの可愛さに胸が打たれてしまった。
今夜はゆうかはくうどうの家に泊まり、くうどうと間にかんなを挟み、三人で川の字になって寝転がり、仲良く眠った。
「くーどー、ゆーかおねーちゃん……。おやすみなさい……」