アングレカム-Angraecum Leonis-
第二十五話花火大会二日目の昼〈初デートへ誘われる〉
はるかは台所に向かい、冷蔵庫の前に立っていた。
冷蔵庫を開けて、中にあったヨーグルトを一つ手に取り、冷蔵庫の戸を閉める。
リビングのテーブルの前に座り、体操座りの形に座り、足を交差させる。
モジモジさせながら、はるかはヨーグルトを一口パクリと食べた。
甘酸っぱさが、今の自分の表してるようでなんだか心が疼く。
たいちと花火を見ている最中に自分がたいちにぶつけた言葉を思い出し、膝に顔を埋めながらジタバタとする。
その言葉は、「好き」というシンプルな言葉だった。
その言葉に対してたいちは、少し間を空け、花火を少し見て、はるかを真っ直ぐ見た後、照れ臭くそうに、「よろしく」と答えてくれた。
その事実がまるで夢のように思え、はるか自身まだ受け入れ難い現実となっていた。
「……昨日の事だよね……私、夢なんて見てないよね……? 昨日のあの時点から、たいちくんと…………あぁうぅ…………」
一口食べた後、テーブルに置かれたままになっているヨーグルトは、はるかの心情を物語っている様だ。
今まで自分はこの世に生きるちっぽけな存在の一つでしかなかったのに、昨日のその出来事と自分の行動によって、まるで世界が、自分の存在事態が変わってしまった様に思えてしまう。
あぁ。なんて幸せなんだろう。
そんな事が頭から離れない。夢のような現実。そんなものを手に入れると人間はこうも変わり、こうも簡単に幸せになってしまうものなのかと。
シンプルなようで複雑な想いを乗せたその「好き」という言葉の重さ。はるかの言葉をたいちにぶつけた勇気。それを受け入れてくれたたいちの優しさ。
その全てが上手く噛み合ってくれた。そのおかげで手に入れる事が出来たこの幸せな気持ちと、なんとなくふわふわとしているこの気持ち。
そして、心のどこかで夢だと思う気持ち。様々な気持ちが心の中でグルグルと駆け回りながら、はるかはまた一口ヨーグルトを食べる。
ヨーグルトの味はやっぱり甘酸っぱかった。
まるで今の自分を物語っている様な気がして。
まるで今の心を表している様な気がして。
はるかは、静かに「美味しい」と呟いた。
ヨーグルトを食べ終え、ゴミ箱に捨てた後、スマホを観るとたいちからLINEが来ている。
あぁ、やっぱり現実なんだな。と嬉しそうに微笑むはるかは、静かにLINEを開く。
『今日花火大会行く前に、遊ばない? 暇過ぎるって言うのと、はるかと会いたくなった』
体操座りさせ、交差させた足を戻し、バタバタとさせながら、「会いたくなったなんて……ズルい……」と呟きながら返事を返す。
「いいよ。私も丁度暇だったし、会いたかった」
『同じ事考えるてるなんて、俺ら案外相性良いのかもね』
「そうかも」
『なんてね。照れちゃうね』
『とりあえずはるかは、どこか行きたいとことかあったりする?』
「うーん。行きたいとこか〜。夕方以降は花火大会も行くからね。カラオケとか映画観るくらいが丁度良さそう」
『プラス急遽やしな。映画行くとなるとなんか観たい映画とかある?』
「うーん、なんだろ。何が良いかな……。最近映画化した“アングレカム”とか?」
『あ、俺もそれ観たいと思っててん!』
「なら、そうしよ!」
昼ご飯もついでに食べに行く事になり、今から大体一時間後くらいの時間にショッピングモールに集合する事が決まった。
はるかは、胸をドキドキさせながらスマホで顔を覆い隠して、静かに「好き」と囁いた。