アングレカム-Angraecum Leonis-
第三十二話花火大会本番まで〈声を殺して泣いた〉
見覚えのある人物、それはりゅうのすけだった。
彼を見つけ、目で追って行って、気が付いたら彼らの座るベンチの裏のすぐ近くに来てしまっていた。
(あれ、さくら何してんだろ)
しどろもどろとしていたら、そこに居たりゅうのすけとみうの二人の会話は始まっていて、無意識のうちにその会話に耳を傾けていた。
「たこ焼き美味え」
「……りゅうはトイレ行かなくても平気?」
「ん? うん。まあ。もしかしたら後で行きたくなるかもだけど」
「今行かなくてもいいの?」
「あぁ。大丈夫。それにお前一人に出来んだろ」
「……え」
「モグッ。ングング。お前近くに居ねえと、なんかあるかもって不安なんだよ。モグモグ。唐揚げ美味え」
(……なんで……そんな事、言ってくれるの……?)
「……変なやつらに絡まれてもめんどくせえだろ。お前も」
「……うん、そうやね………………………ね、ねぇ! りゅう?」
「……んぁ? なんだよ」
「……りゅうってさ、今好きな人とか居ないの?」
「好きな人? んだよ急に」
「……う、ううん、なんとなく」
心拍数が高速で上がってるような気がする。
今上手く話せてるかな。
りゅうのすけの顔を見れずに、地面ばかり見つめるみうは、少し冷や汗をかいている。
今までの人生で“今”が一番緊張してるかも知れない。
少し息が詰まりそうだけど、でも、頑張らないと。
「……そういうみーちゃんは、好きな人とか居んの?」
「……え……」
(え、聞いてくるの?)
ここで、なんて言えば良いのか。
なんて答えるのが正解なのか。
また聞き返した方が良いのか。
それともこれをチャンスに告えば良いのか。
(……え、え、え、これってまさかの告白現場?!)
ベンチの裏のすぐ近くでさくらはりくと一緒に隠れながら二人の会話に、いけないと思いつつもそのまま続けて聞き耳を立ててしまう。
りくは空気を読んで、さくらと一緒にその現場を見て、なんとなくドキドキしている。
「居ねーの? んまあ、居そうにねえもんな。」
「……い、い、い、いいい、い、居る! 居るよ! うん、居る……」
「へぇー、意外やな」
「……そ、そっかなぁ?」
「でも、みーちゃんならすぐ付き合えんだろ。頑張れよ」
「…………」
(告《い》え! 告《い》え! 告《い》え! 告《い》え! 私が好きなのは! みうが好きなのは! りゅうだって! 口開いて! 告《い》えーーーー!!)
すると、りゅうのすけのスマホからLINEの通知音が。その音と共に、みうの中の何かが切れたような気がした。
「ひろあき、まだ戻ってこれねえってさ」
「好き」
「…………は?」
「りゅうが好き」
「…………はぁ?」
「驚いてくれるんだね」
「……いや、は? 何言ってんのお前」
「だから、好きだって言ってるの。あなたの事が好きなんです」
「バカか? お前」
「バカじゃないよ」
「…………ごめん」
その言葉を聞いた瞬間、胸に鋭い痛みが走った。
「…………ううん。分かってた。」
「いや、違う」
「へ?」
「突然の事過ぎて、ちょけてんのかと思って、ツッコミのつもりで言ってた。やったら、様子から伺うに違う事が察せたから」
「こんな事ふざけていう人居る?」
「花火大会テンションで言うやつおるやろ」
「ふふ、確かに。ねぇ、りゅう」
「……ん? なんだよ」
「みうと付き合ってくれない?」
「…………………………………………………………」
「…………答えてくれないの…………?」
「お前ほんとバカだな」
「……なんで? どうして……?」
「なんでも。いや、俺がバカなのかも」
「何を……言ってる……の……?」
りゅうのすけは溜息を吐きながらみうの顔を見つめた。
その裏で見聞きしていたさくらは話半ばでその場からりくを連れて逃げていた。
なぜ逃げ始めたのか、自分でも分からなかった。
でも、しばらくすると涙が溢れてきて。
体の震えが止まらなかった。
しばらくしてりくの背後で立ち止まる。
「……あれ、ねーちゃんどうしたの?」
「……りく……りくぅ……分かんない……分かんないよぉお……」
りくを抱き締めて、さくらは一頻りに泣いた。声を殺して泣いた。
自分で自分がわからない中、泣いた。