アングレカム-Angraecum Leonis-

第三十五話あなたを



 型抜きをして、射的をして、ヨーヨーすくいをして、一緒にたこ焼きを食べて。

 幸せな時間を過ごしながら、御満悦ななおは、かずきの横顔を見て、一瞬で目を逸らした。

(オォオオォ……顔直視出来ねえ……)

 見事に綺麗な横顔に見惚れていたいのに、直視出来ない。見ている、という事がバレてしまうと、気持ち悪いと思われてしまうかも知れない。

 そもそも羞恥が勝って、彼の顔を見る事が出来ない。
 直視が出来ないから、チラチラと辺りの風景と一緒にかずきの横顔を目に焼き付ける。
 繋いでる手を見て、ふふっと笑う。

(あぁ。こんな幸せ、感じたのいつぶりだろうな……)

「ん? どうしたの? なおちゃん」
 
「……な、なんでもない……よ……!」

「そ? 焼きそば食おうかなって思ってんだけど、なおちゃんも食う?」
 
「…………食べさせてくれるなら食う…………」

「うん、いいよ」

 発言した後、なおはカァーッと一気に赤くなる表情に自分でも気付く。火照る頬を外せない左手で抑えようと思っていたら、無理だったので、右手だけで抑える。

(オォーッ!! なお! 超・大・胆!! ……明日には死んでしまいそうだな……)
 
 なおは心の中でそう思いながら、焼きそばを購入したかずきに着いて行き、少し離れたところでかずきに、焼きそばを食べさせてもらう。

「ふー! ふー! ……ほれ、あーん」

「……あ、あーん。」

「ほら、ちゃんとこっち見ないと、危ないよ」

「……え、でも……」

「でもじゃないよ。火傷するかもやし、溢れちゃうかもやろ?」
 
「……う、うん……」
(無理言うなって……それとも……分かってて言ってるの……?)

 焼きそばに目線を合わせると、それと同時に彼の優しそうな瞳が視線に入る。

 一口焼きそばを食べて、モグモグと噛んでいる中で「美味しい」と呟く。

 「ほんと? ……モグモグ。あ、ほんまや、美味い」

 屋台で食べる焼きそばなんて、どこも大した変化のない普通の焼きそばである。
 なんの変哲も無いし、だからこそ特別に美味しい焼きそばなんて無いはず。
 野菜と、肉と、そばが入っていて、ソースがかかっていて、鰹節がふりかかっていて、青のりがふりかかっていて、紅生姜が添えられている、というシンプルな焼きそば。

 そんなシンプルな焼きそばでも、好きな人に食べさせてもらう、一緒に食べるという秘密の魔法によって、普段の美味しさによりを掛けているのかも知れない。

 そんな事を考えながら、なおは貴方と付き合えて、貴方と花火大会に来れて本当に良かったと心の中で呟く。

 焼きそばを食べながら、無邪気な笑顔を浮かべる彼の顔を見ながら。

 優しく微笑むなおを見て、自然と笑顔の溢れるかずきは「もう一口いるか?」となおに聞いた。

 なおは微笑みながら「うん」と言い、かずきにもう一口食べさせてもらった。

 そろそろ花火の時間だな、とかずきは言い花火が良く見えそうな場所にへと移動する。

 少し歩いた先にて、手を繋いで向かい、花火が打ち上がる様を二人で鑑賞する。

「おぉ、昨日とはまた違って凄えなぁ」

「……ほんとに。とても綺麗」

 そろそろなおのデザインした花火が打ち上がる。

「そろそろかな?」

「うん、多分」

 すると、暗闇の夜空に真っ赤に燃え行く薔薇が大きく一つ描かれた。
 それが消えると共に無数の小さな紅蓮の薔薇が爆発する様に描かれる。

「……すごい……」

「綺麗な赤い薔薇やな。でもなんで赤いバラ?」

「……特に意味なんて無いよ」

「いやいや、なんかあるんやろ?」

「……い、いやいや? な、ないですから?」

「仕方ねえから、赤い薔薇の意味でもググってみる」

「……え!? やめてやめて!!」

「ほら、なんか意味があるんだろ?教えろよ」

「……うぅ……そんなんずるいって……」

 花火で光るかずきの横顔を見ながら呟く様に言葉を放つ。

「……………………“貴方を愛している”……………………赤い薔薇の花言葉……」

「ん? へぇ……へ?」

「…………ッッ」

「……花火の音で良く聞こえなかった……」

「……嘘つけよ……」

「……アハハッ……バレた?」

 なおのデザインした花火は直ぐに打ち上げ終わり、次の花火へと移る。

 かずきはなおの肩を掴んで、優しい表情で顔を近づける。

「俺も貴女を愛しています」

 そう言いながら、無数に放たれた火の花の下、なおの唇に、自分の唇を重ねる。
 そのまま、なおから力強く抱き締められ、クスリと笑いながらかずきも抱き締め返す。
 
「んーーーーっっ!!!」

「これから先もこうやって仲良くやってこうね。まだ付き合って1日目だけど、来年の花火もこうやって見に来よう。約束だよ」

「……うん……うん……うん……」

 貴方と観れたこの花火を私は忘れる事は無いだろう。もし仮にどこかの未来で貴方と別れる事があったとしても。

 なおはそう思いながら、かずきの肩に頭を置きながら、残りの花火を観た。

(貴方が前に、熱中症で倒れた私を助けてくれて。それから私を想ってくれた様に。私もずっと前に手を差し伸べてもらったあの日から。貴方を想い、忘れられなかった…………だからこその……赤い薔薇……)

 パラパラと鳴る音と、パッと光る火の花を観ながら、なおとかずきは幸せを想った。
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