アングレカム-Angraecum Leonis-
第三十六話2人の幸せ
無口な空が声を張り上げて鳴り響く中、その光の下にはるかとたいちはお互いに手を繋ぎながら、花火という作品の数々を見ながら感動をする。
どうやってこうやって作り、どうやってこうやって表現しているのか。それも気になる中、好きな人と一緒に観れたこの花火をお互いに胸の内の想い出としてしまう。
この時が永遠に続くような気がして、この幸せが永遠に続けば良いと思えて、何か面白味のある話をしていたわけでもないのに、一緒に居れる、一緒に花火を観れる、一緒にこの時を過ごした事の意味の深さを感じている。
何か特別な会話も交わしていないが、ベンチに座りながら、はるかは自然とたいちの肩に顔をもたれかけて、それに気付いた、たいちも、少し緊張しながら、平気なフリをして花火を観る。
この前までだと、得られなかったこの時間。
この前までだと、知る由もなかったこの時間。
この前までだと、お互いにこんな関係になるとも思わなかった。
昨日よりも派手めな花火を観ながら、お互いに無言の中、顔を見つめ合う。
少し目を逸らすはるか。
真剣な表情で見つめるたいち。
お互いに我慢しきれずに軽く笑い合い、フゥーっと軽い深呼吸をした。
その後たいちは、はるかの顔を優しく撫で、頰辺りに手を添えながら、接吻を交わす。
気恥ずかしい時間も少し経ったが、お互いにもっと好きになれた気がした。
また、たいちの肩にもたれ掛かる、はるかの頭に、たいちは頭を置いて、花火を観続けた。
「このままずっと花火打ち上がんないかな」
「本当にな」
「うん。寂しくなっちゃう」
「……そうやな」
「次いつ会える?」
「来週くらい?」
「……わかった。来週くらいね? 会える日まで楽しみに過ごしとく」
「うん。また連絡するよ」
「待ってるね。」
「うん、わかった」
しばらくの間また花火を見て過ごす。繋がれた手は離れる事は無く、無言の中幸せそうな表情を浮かべる二人。
また来年もこの幸せが訪れる事を願いながら、二人は指を交差させて手を繋ぎ直す。
この僅かな幸せを取り零さない様に、空の叫びを聴きながら。描かれた花火を観ながら。
なんて事の無い日常の中、お互い心の中でこれからを誓う。
もう二度とこの空を二人で観れない。なんてネガティブな思考はしなかった。
むしろ、来年もまた一緒に観たいという考えの方が勝った。
全く同じ空なんて見えないけど、異なる新しい空の表情を二人で覗き見たかった。
明日になればいつもの日常が舞い戻る。この非日常的な花火大会を終えて、得られた事の大きさを無意識に感じながらも、明日から戻る日常でも、また会おうと二人誓い合い、残りの花火を2人で見届けた。
寂しそうな表情をする、はるかの顔を見て、自分も物悲しくなるたいちは、その表情を隠して、ポン、とはるかの頭を撫でた。
「まだ付き合ったばっかやし、お互い少しの間でも会えへんのは寂しいけど、大丈夫。会えへん間でも俺ははるかを想うし、更に会いたくなって、また好きになってるかも知れへん」
「……ほんまかな。浮気とかしたらあかんよ?」
「そもそも浮気をするっていう思考が無かったわ」
「ふふ。私もせえへんから安心して」
「されたら泣くで」
「私の方こそ」
「とりあえず、はるか、家まで送るわ」
「一人でも帰れるよ?」
「少しでも一緒に居たいから、送る。嫌って言われても送る」
「んふふふ。なにそれ。嫌って言うわけないやん。そんな風に言われたら余計言えへんし」
「ははは。まあ、夜道に女の子一人ってのも危ないしな。よし、帰ろか」
「うん……ありがとう」
鳴き止んだ無口な空の下、2人の男女は、互いに笑い合いながら、帰宅路を歩き、次会う時に何をしようかなんて話をしながら、暗い夜道を歩いた。