アングレカム-Angraecum Leonis-
第三十七話告ったその先
花火が打ち上がるその瞬間を、彼らは様々な場所にて、各々その様を見届けようとしている。
メンツにより場所は異なりながら、同じ空を見上げている。
明日を迎える為に真っ暗に染まり行くその空に鳴り響く火の花の音を観聴きする為に、彼らは空の下に集う。
少し離れてようが、遠くに居ようが、見る空は同じ。
見る景色は同じ。
世界が闇に覆われたような空を見上げる。
その瞬間に、数秒の間をおいて、火花が舞い上がる。
ドゥパァアンと気持ちのいい音を立てて、打ち上がる火の花はとても美しく、可憐で、儚げであった。
一瞬にして燃え上がり、一瞬にして消え失せる。
その様を見て、彼らは何を想うのだろうか。
一年のうちにたった一度のこのイベントに集う人々は、その空を見て、何を想うのだろうか。
今年も夏が始まり、そして終わろうとしてい
る。
長い様で短く、短い様で長い。
そんな休みも、このイベントが終わると、直様に終わりが訪れる気がする。
楽しみで仕方の無かった花火大会も、やって来るまでは遠いのに、やって来たらあっという間に終わる。
終わってしまえば虚しい気持ちがやって来る。
そうして、また来年も観に来ようと思えるのかも知れない。
友達と。
恋人と。
家族と。
その時々により、見える景色は変わって来るかも知れない。
明日はどんな空が待っているのだろう。
元気な顔を見せてくれるのかな。
悲しい顔をするのかな。
困った顔をするのかな。
それとも笑ってくれるのかな。
どんな顔でも、空は空。そんな空は一年に一度、声を上げて、鳴き叫ぶ。
どんな言葉を、想いを秘めて泣き叫ぶのかは不透明だが、人々はそれを観て、勇気を貰ったり、元気を貰ったりする。
今日も空は騒がしい。
空に抵抗するかの様に、地上に居る人々も騒がしい。
ひろあきは、大行列の中からやっとの事でトイレを終わらせることを成功する。
急いでりゅうのすけ達の元へと戻って来る。
然し乍らそこに流れる空気感はどこか神妙な面持ちの様で、近付けないでいた。
(お、告白時間か……!? こりゃ邪魔出来ねえや……)
「……ごめん。俺、みーちゃんとは付き合えない……」
「……付き合え、ない……それはどうしてか……聞いていい……?」
「…………………………」
「……こ、答えて……答えて、よ……! 私を振って……その理由は分かってる……!! 私以外に他に好きな人がいるからなんでしょ……? それは誰……?! 告白した私にも聞く権利はあるはず……!」
「うん。俺、ここ最近ずっと同じ事考えてた。……それってみーちゃんの言う通り好きな人が居るって事なんだろうな……」
「……え……?」
「……ねえ、りゅう。……そ、それって誰なの……?」
怖かったのに、聞きたくて仕方なかった。
自分以外の好きな人。それを聞いてしまうと、それで終わりになってしまう気がするのに、相手が誰か知りたかった。
「……………………」
「教えてくれたって良いじゃない……! ねえ! 誰なの!? みうの知ってる人?!」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらただひたすらに叫び散らす。
りゅうのすけは何も悪く無いはずなのに、まるで彼を責め立てる様に。
「…………………………」
りゅうのすけは、みうの瞳を逸らさずに、一点に見つめながら、ゆっくりと口を動かした。
その瞬間、時間が止まった様な気がした。
騒がしく、祭りの屋台を楽しむ人々の、喧しい声も、この瞬間だけ、聞こえなくなった気がした。
りゅうのすけは、一瞬だけ目を閉じて、真面目な表情を浮かべながら、みうを見つめる。
「……相手のこともあるのにそう易々と言えたもんじゃないよ。……でも、みーちゃんも知ってるよ」
その答えを聞いて、みうは、固まってしまう。
まだ時間は動いてくれないでいる。
「……まさか……さくちゃん……?」
りゅうのすけは答えない代わりに一心の瞳でただひたすらにみうを見つめた。
(……まさか過ぎる結果やったなこれ……いや、りゅうくんに他に好きな人居るかも? って昨日まやちゃんと予想してたけども……)
ひるあきはしばらく沈黙してそのシーンをしばらく見つめた後、深い溜息を溢して空を見る。
「ごめんな、俺みーちゃんの事好きだけど、そういう好きじゃないんだ」
「……うぅうううぅ……うぅうぅ……うん……うん……うぅうぅう……」
りゅうのすけの声を聞きながら、嗚咽を吐きながら、みうは頷く。
「でも、これからも仲良く、友達で居て欲しい。ごめんな。俺わがままでさ」
「……うぅうぅうぅう……みうの方こそ……うぅうぅ……ううぅうぅぅうぅぅ……ううう……ごべん"……」
「……ほんと、ごめんな……」
りゅうのすけは、そう言いながら、申し訳なさそうにして、下を向く。
しばらくすると、りゅうのすけのスマホが鳴り出し、着信音を知らせている事に気付く。
「……ごめん、みーちゃん、電話出るね」
「……うん、いいよ……」
「ありがと。……もしもし。どうしたの?」
着信画面から、通話相手がくうどうである事が分かった。
『りゅう、今どこに居る?』
「え、花火大会に来てるけど」
『さくちゃん、見てないか?』
「……さくちゃん? 見てないけど……? なんかあった?」
『……そっか。ごめん、さくちゃん見当たらんくなってさー……また見かけたらで良いから……』
「さくちゃんが居なくなった!?」
「……え……?」
みうは涙を止めて、顔を上げる。
(……え……!?)
ひろあきはびっくりして飲んでいたお茶を吹き出す。
『いや、ただ見当たらんってだけやからさ。いやー、おかしいなあ。さくちゃんさっきまで、さくちゃんママンと一緒に居ったハズやのに……』
「……分かった。俺の方でも探す。くうどう君の方でも、なんかあったら教えて」
『あぁ、すまん。助かるよ! ありがとう! 分かった! またなんかあればLINEする!』
りゅうのすけは即座に通話を切り、走り出した。
みうは、その背中をただただ、見る事しか出来ないまま、泣き出してしまった。
ひろあきはみうに近付き、声をかけた。
「……みうちゃん、たこ焼き、買って来たんけど食う?」
「……食べる……」