アングレカム-Angraecum Leonis-
第三十九話空に浮かぶアングレカム
神社の近くにある、河川敷から少しズレた場所にあるこの公園。
さくらは一人そこに立ち寄って、ブランコに乗り、揺られながら空を見ていた。
「……あぁ。花火綺麗だなぁ……」
この空を一緒に見たい人が居た。
無意識のうちに、自分の中に存在していた。
それが誰か。もう分かっていた。何故涙を流し、泣いたのか。その涙の意味と、気持ちの名前に。
本当は分かっていたんだ。ただ、分かろうとしなかった。いや、認めようとしなかったんだ。
「今頃……りゅうくんとみうちゃんは……一緒に……」
そう思い耽ながら、空に浮かぶ、円を描く火の花を見上げる。
すると、公園の出入り口付近で、息を切らした声が聞こえて来る。咄嗟にその方向へ視線を向けた。
肩を動かす勢いで息を切らし、大量の汗を流している人物が居る。その人物はりゅうのすけだった。
「ハァハァッッ!! ハァハァッツ!! やっぱりッッ!! ここやったかッッ!!」
「……え……? りゅう……くん……?」
「……ハアハアッツ!! ちょっ!! ハァハァッツ!! ちょっと!! タンマ!! ハァハァ!! ごめん!! 待って!!」
「……なんでそんなに疲れてるの……?」
りゅうのすけは、近くにあったベンチに腰掛けて、道中で買った飲み物を勢い良く飲みながら、一休みする。
さくらも、その隣にちょこんと座り込む。
しばらくして、りゅうのすけは落ち着いた。
さくらは、気まずくなりながら声を掛ける。
「……どうしてりゅうくんがここに……?」
「ふぅーー……え? ああ。なんかどっか行ったって聞いて。探した。そんでやっと見つけた」
「……探した……って……どうしてここが分かったの……?」
「あーっと、一人でどっか行く、人混みウザくなる、誰もいない所に行きたくなる、花火大会の会場の神社からで一番近かったこの公園に行き着いた」
「それまでに神社中走り回ったお陰でめちゃくちゃ疲れたけど……つーか人混みエグすぎだろ……」
「え……なんで……そこまでして……」
「……なんでってそりゃ……心配だからに決まってんだろ。なんかあったのか? あったからこんなとこ来てんだろ」
「……いや、そんな事より、いいの? こんなとこに居て。みうちゃんのとこ戻ってあげなよ…………」
「なんでみーちゃんとこ戻んねーといけねーんだよ」
「……え、だっ、だって……」
「なんだよ」
「……み、みうちゃんと……つ、付き合う事になったんでしょう……?」
「……は? なんで? なんでそうなんの?」
「……え、だって……だって……だって……」
「……付き合わねーよ」
「……え、なんで……?」
「なんでもどうも、俺がみーちゃんに付き合えないって言ったから……っつーかオメー、さっきの見てたのか?」
「……え、付き合えない……って……なんで……」
自然と嬉しく思ってしまった。さっきまで痛かった、重たかった心が、なんだか軽くなった気がした。
「……うん、付き合えないって言った……俺、みーちゃんの事好きだけど、そういう好きじゃねーからって……それに他に好きな人居るからって……」
軽くなった気がした心に、また重苦しくなった気がする。
(そうだよ……ね……りゅうくんだって……好きな人くらい……居るよね……)
「……俺、さくちゃんが好きやから」
ひゅぅうぅうぅ……ドゥォパァアァアァンンッッ!!
りゅうのすけの背景の空にまた大きな火の花が
舞い上がった。
大きな破裂音と共に、綺麗で美しい火の花が漆黒の夜空に描かれている。
その火の花はアングレカムの花の形を彩っていた。
さくらの紅く火照る顔が明るく照らされる。
「……あ……え…………? ……今、な……なんて……?」
「だぁーーっっ! もう……こういうの慣れてねーんだよ…………好きって言ったんだよ……悪いか!」
「うぁあぁぁあぁ……うぅうぅうゔゔぅうぅ……」
「わわっ、何泣いてんだよ……!」
「……ごめん……うぅう……嬉しくて……」
「……う、嬉しいならよかったよ……」
「……さくらも……さくらも……りゅうくんが……りゅうのすけくんが……大好きだから..........!!」
「……こんなに人に好きって言われて、心底嬉しいって思えたのは、人生で初めてかも知れん」
「……さくらも……」
夜空に連発で咲く、火の花が彼らを見守っている最中りゅうのすけは、泣いているさくらの涙を優しく拭い取り、優しく抱擁を交わした。