アングレカム-Angraecum Leonis-
第五話乙女の決意
週末の朝りゅうのすけは寝惚けた顔をしながら、学校の支度をする。もう少しで夏休み。そんな朝。
ボサボサの髪を整え、歯磨きをした後、母の作ってくれた朝ご飯を食べながらボォーッとテレビを眺める。
「……お母さん、今日って乗馬あったっけ」
「今日はないよ」
「うん、わかった」
もしゃもしゃとフレンチトーストを食べ、お茶を啜り飲む。席から立ち上がって部屋にあるリュックを取りに向かう。
カバンに学校の用意と、スマホとモバイルバッテリーなど適当な雑貨を入れ、リビングにへとまだ戻る。
リビングで少し時間があったので、再度コップにお茶を入れてそれを少し飲み朝の情報番組を流し観る。
内容なんて頭に入ってきていないだろうが、学校へ行くまでの時間、他に何かするよりもただこうやってボォーッとするこの時間がりゅうのすけとしては好きだった。
ボォーっとしながら、今日の授業はなんだったとか、学校の友人と何をするだとか、昼休みの昼休みに何をするだとか。そんな事を適当に考える。そんな時間がりゅうのすけは好きだった。
そんな間に家のインターホンが鳴り響いてくる。ボォーっと考えていたりゅうのすけの世界は一瞬で崩れ去り、りゅうのすけはリュックを背負って家の出入り口の扉へと向かう。
ガチャリとドアを開けたその先にいた人物は、みうだった。
「……おはよ」
「りゅう! おはよ! ほらりゅう。学校行くよ」
「……まったくあっちーな」
「ほんとにねー。てか今度クラスのみんなで花火大会行くんだけど、りゅうは花火大会行かないの?」
「……花火大会……? あー、そういやかずきくんとかひろあきとかと一緒に行くって話をしたような?」
「え!珍しい。毎年ガンダムしてくるとか、ゲームするとかって言って行かないのに」
「んー、たこ焼き食いてえなあって思って」
「たこ焼きかよ! たこ焼き食べたら帰るの?」
「んぁ、どうかな。分かんねえ」
「……な、ならさ、私と一緒に花火見ようよ……?」
「ヤダ」
「……っ……な、なんでよー。またゲーム?」
「べっつにー」
りゅうのすけはそう言いながらへらへらと笑い、しばらく歩いた先に居たひろあきの肩を後ろから掴む。
急な出来事でびっくりするひろあきは、そのままりゅうのすけに気付き、挨拶を交わす。
「……おわっ!? って、りゅうくんか、おはよ」
「よー、ひろあき。おめえ昨日の荒野、なんだよ」
「いや、あれは俺は悪くない! 相手が強過ぎた!」
「んな事関係ねーよ。30キルしろ、30キル」
「は!? 30キル!? 無理無理!
俺昨日10キルも出来んまま死んでんで!?
昨日は敵が強過ぎたんやって〜」
「俺は35キルしたわ」
「りゅうくんが上手すぎるんだって……てか俺久しぶりにやったし……」
「は? 言い訳? 潰すよ? 怒るよ?
いいの? 泣くよ?」
「……情緒不安定かよ!」
「えぐっ、えぐっ、ウヘヘヘ!」
「なんだよ! もー! 反応がし辛いわ!」
「ダメだなぁー、とりあえずしばらくは
荒野、特訓だな。お前下手過ぎ」
「テスト終わって時間出来たしいいけどさ」
「りゅう〜〜、みうも混ぜて!」
「お前すぐ死ぬやん」
「だから、りゅうがみうに教えてくれたらええやん」
「は? 手間」
「ははは……。そう言えばみうちゃんって、
花火大会行くの?」
「……うん! 行くよ。クラスの男女数人で!
……さっきりゅうに花火見よって言ったら
ヤダって言われたけどね」
「どうせ俺達も男だけで花火大会行ってもとかって話してたしなぁ。でもみうちゃんとこ、男女数人でしょ? 一緒に回るのキツそうだな」
「別にみうはこっちに来てもいいよ」
「は? 先約がいるならそっち行けよ。
そいつらに迷惑だろ。クズが」
「ん〜〜! みうはりゅうと花火見たいの!」
「知らねーよ。自分の都合で周りに迷惑かけんなクズ女」
「……ん、わかった……」
「あわわ、りゅうくんちょっと言い過ぎだよ〜〜、なはは」
「コイツはこれくらいでいいんだよ」
「……みうちゃん、花火を見るタイミングになったら俺が連絡取ってりゅうくんと見れるように仕向けようか?」
「……いいの?」
「別にいいよ。ほら、俺ら幼馴染のよしみ的なのもあるし。だからそう落ち込まないで」
「うん、ひろあき、ありがとう。」
「さぁて!学校着いたら1回荒野するぞ!」
「……マジかよ」
頭をかきながら、ひろあきは苦笑しりゅうのすけの背後をついて行く。みうはひろあきより後ろで俯きながらりゅうのすけの背中を見る。
昔あんなに小さかったのに。
今はこんなに大きくなって。
自分の手の届かない所へ行きそうで怖い。
中身は変わってないようで変わってる。少しずつだけど、大人になっていってる。
なんとなく、直感的にそんな気がする。
彼の横顔を見つめながらみうは胸に秘めたる想いをこの夏に解き放とうと決意を固めた表情をする。