野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
時方(ときかた)もつられて泣く。
「こちらの女君(おんなぎみ)(みや)様に引き取られれば、宮様の奥様として私もお仕えすることになると思っておりました。そうすれば女房(にょうぼう)の皆さんとも親しくお付き合いさせていただくことになるだろうと。こんなことになりまして、皆さんのお役に立ちたいという気持ちはかえって強くなっているのです。悪いようにはいたしません。
宮様はあなたのために乗り物もご用意なさいました。(から)のまま引いて戻っては、宮様がお気の毒です。侍従(じじゅう)殿(どの)はいかがですか。右近(うこん)殿(どの)がご無理なら、侍従殿が一緒に来てくださいませんか」

右近は侍従を呼んで、二条の院に上がるよう言った。
とんでもないと侍従は断る。
「私が宮様の御前(ごぜん)に上がったところで、いったい何をお話しできましょう。そもそも今は、死人(しにん)の出た家の者は(こも)っているべき期間です。縁起(えんぎ)の悪い私がふらふらと出かけて、万が一、宮様に不吉(ふきつ)なことが起こったら」

「縁起が悪いという点では宮様もあなたと同じでいらっしゃいますよ。あれほど深く女君をお愛しだったのですから。宮様のご身分がもう少し低ければ、一緒に山荘(さんそう)に籠っていらしてもおかしくなかったでしょう。
それに籠っているべき期間はもうすぐ終わりのはずです。やはりどちらかおひとりだけでも参上(さんじょう)なさってください」
宮様びいきだった侍従は、
<これを(のが)したらもう宮様にはお目にかかれないかもしれない>
と自分が行くことに決めた。

喪服(もふく)をきちんと着た侍従は美しい。
喪中(もちゅう)用の()(こし)に着けるべきだけれど、それだけは用意していなかった。
裳は女房が主人の前に出るときに着ける(かざ)りだから、浮舟(うきふね)(きみ)が亡くなった場合は使わないと油断していたの。
宮様の御前に上がるなら必要だから、仕方なく地味な色の裳を持っていく。

乗り物に()られながら、
<姫様が生きていらしたら、この山道を通って宮様と都へ行かれるはずだったのだ。おふたりをひそかに応援していたのに>
と悲しくなる。
泣きながら二条の院に到着した。
< 19 / 44 >

この作品をシェア

pagetop