野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
(みや)様は侍従(じじゅう)のことをただの女房(にょうぼう)としかご覧になっていなかった。
でも女君(おんなぎみ)が亡くなった今は、形見(かたみ)のように親しくお思いになる。
「今後はこの二条(にじょう)(いん)で仕えよ。亡き姫と中君(なかのきみ)親戚(しんせき)だから、無関係な屋敷に(つと)めるよりよいだろう」
「そうさせていただくにしましても、まだ十分に悲しんでおりませんから、山荘(さんそう)(こも)る期間が終わりましてから」
「そうか。ではそれからでよい。必ずまた参れ」
侍従さえ手放したくないとお思いになる。

明け方になって侍従が山荘に帰るとき、宮様はお土産(みやげ)をお渡しになった。
浮舟(うきふね)(きみ)のために作らせなさった(くし)やお着物よ。
女君を都に迎えるとお決めになってから、宮様はいろいろな物をご用意なさっていたの。
まだ他にもたくさんあるけれど、女房の侍従が使えそうな物だけをお与えになる。
<さりげなく山荘を出てきたのに、こんなに立派な物を持ち帰ったら、他の女房に(あや)しまれてしまう>
侍従は困ったけれど、お断りできるはずもない。

山荘に戻ると、他の女房がいないところで右近(うこん)とこっそり見た。
(こま)かい細工(さいく)で華やかに作られている櫛や、立派に整えられたお着物に、ふたりは泣く。
「こんなにすばらしい物、喪中(もちゅう)のこのお屋敷では目立ってしまうわ。どこに(かく)そうかしら」
と、困りながら感激している。
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