野いちご源氏物語 五二 蜻蛉(かげろう)
薫の君のご正妻の女二の宮様は、女一の宮様の異母妹君でいらっしゃる。
ご結婚後まもなく内裏をお出になって、今は薫の君のご自宅である三条邸でお暮らしよ。
女二の宮様もとてもお美しい。
朝早くお目覚めになったところをご覧になって、
<この方だって女一の宮様と同じくらいお美しいのだ>
と薫の君はお思いになる。
<しかし似てはいらっしゃらない。あちらはおそろしいほど上品で、すばらしいご様子だった。この方の母君はただの女御様だが、女一の宮様の母君は中宮様だ。それでありがたく感じてしまうのだろうか。それとも思いがけないところで垣間見したために、印象が強かったのだろうか>
あのときの女一の宮様のお姿を再現してみようとひらめかれた。
「あぁ、暑い。もっと薄いお着物をお召しになってはいかがですか。女性はその時々にふさわしいものを着ているのが素敵ですよ」
さりげなく宮様におっしゃってから、
「縫物係の女房に、薄い生地のお着物をすぐに縫うよう伝えよ」
と女房にお命じになった。
おそばの女房たちはくすくす笑っている。
<女盛りの奥様を着飾らせたくていらっしゃるのね>
なんて、のんきな勘違いをしているみたい。
薫の君は一旦ご自分のお部屋に行かれて、お昼ごろにご正妻のお部屋へ戻っていらっしゃった。
新しいお着物は届いているのに、放ったらかしになっている。
「どうしてお召しにならないのです。誰かが見ているなら透けたお着物は品がありませんが、今は私しかおりませんよ」
と、ご自分で宮様に着せてさしあげなさるの。
さぁ、これでどうかしら。
袴もちょうど昨日の女一の宮様と同じ色よ。
お髪の豊かさは見劣りなさらない。
それでもやはり、お着物を同じにすれば似るというものではないわ。
まだ諦めきれない薫の君は、氷を持ってこさせると、女房たちに割らせなさった。
紙に包んで宮様にお渡しになる。
いったい私は何をしているのだろうと、お心は冷えていく。
<恋しい人を手に入れられない場合、そっくりな絵で満足しようとする男は昔話にもいる。ましてこの方は女一の宮様の異母妹でいらっしゃるのだから、恋しい人の代わりとして十分ふさわしいはずなのだ。それなのに少しも満足できない。昨日のお部屋に私も混ざって、思う存分女一の宮様を拝見したかった>
とお嘆きになる。
「姉君の女一の宮様に、ときどきお手紙を差し上げていらっしゃいますか」
薫の君は作戦を変更なさった。
「いえ、内裏におりましたころは、帝に言われて差し上げたこともありましたけれど、近ごろは」
「それはいけませんね。あなた様がただの貴族の妻になってしまわれたせいで、姉宮様はお手紙をくださらないのでしょう。中宮様に申し上げておかなければ」
「まぁ、困ります。私が文句を言ったように中宮様はお受け取りになりましょう。そんなつもりはありませんのに」
「こういうことははっきりお伝えした方がようございます。『つまらない男の妻になったと見下していらっしゃるようですので、こちらからはお手紙を差し上げるのを遠慮しております』と、代わりに申し上げておきましょう」
ご正妻はお困りなのに、勝手に決めてしまわれた。
ご結婚後まもなく内裏をお出になって、今は薫の君のご自宅である三条邸でお暮らしよ。
女二の宮様もとてもお美しい。
朝早くお目覚めになったところをご覧になって、
<この方だって女一の宮様と同じくらいお美しいのだ>
と薫の君はお思いになる。
<しかし似てはいらっしゃらない。あちらはおそろしいほど上品で、すばらしいご様子だった。この方の母君はただの女御様だが、女一の宮様の母君は中宮様だ。それでありがたく感じてしまうのだろうか。それとも思いがけないところで垣間見したために、印象が強かったのだろうか>
あのときの女一の宮様のお姿を再現してみようとひらめかれた。
「あぁ、暑い。もっと薄いお着物をお召しになってはいかがですか。女性はその時々にふさわしいものを着ているのが素敵ですよ」
さりげなく宮様におっしゃってから、
「縫物係の女房に、薄い生地のお着物をすぐに縫うよう伝えよ」
と女房にお命じになった。
おそばの女房たちはくすくす笑っている。
<女盛りの奥様を着飾らせたくていらっしゃるのね>
なんて、のんきな勘違いをしているみたい。
薫の君は一旦ご自分のお部屋に行かれて、お昼ごろにご正妻のお部屋へ戻っていらっしゃった。
新しいお着物は届いているのに、放ったらかしになっている。
「どうしてお召しにならないのです。誰かが見ているなら透けたお着物は品がありませんが、今は私しかおりませんよ」
と、ご自分で宮様に着せてさしあげなさるの。
さぁ、これでどうかしら。
袴もちょうど昨日の女一の宮様と同じ色よ。
お髪の豊かさは見劣りなさらない。
それでもやはり、お着物を同じにすれば似るというものではないわ。
まだ諦めきれない薫の君は、氷を持ってこさせると、女房たちに割らせなさった。
紙に包んで宮様にお渡しになる。
いったい私は何をしているのだろうと、お心は冷えていく。
<恋しい人を手に入れられない場合、そっくりな絵で満足しようとする男は昔話にもいる。ましてこの方は女一の宮様の異母妹でいらっしゃるのだから、恋しい人の代わりとして十分ふさわしいはずなのだ。それなのに少しも満足できない。昨日のお部屋に私も混ざって、思う存分女一の宮様を拝見したかった>
とお嘆きになる。
「姉君の女一の宮様に、ときどきお手紙を差し上げていらっしゃいますか」
薫の君は作戦を変更なさった。
「いえ、内裏におりましたころは、帝に言われて差し上げたこともありましたけれど、近ごろは」
「それはいけませんね。あなた様がただの貴族の妻になってしまわれたせいで、姉宮様はお手紙をくださらないのでしょう。中宮様に申し上げておかなければ」
「まぁ、困ります。私が文句を言ったように中宮様はお受け取りになりましょう。そんなつもりはありませんのに」
「こういうことははっきりお伝えした方がようございます。『つまらない男の妻になったと見下していらっしゃるようですので、こちらからはお手紙を差し上げるのを遠慮しております』と、代わりに申し上げておきましょう」
ご正妻はお困りなのに、勝手に決めてしまわれた。