この恋、予定外。
うまく息が吸えない。
視界が揺れる。
こらえようとしても、間に合わない。

ぽろっと落ちる。

「……やばっ」

小さくこぼして、慌てて顔を伏せる。

止めようとしても止まらない。音を立てないようにするのが精一杯で、肩だけがわずかに揺れる。

泣くなんて、こんな時に。ばか。


そのとき、背中にそっと触れる感触があった。

押さえるでもなく、支えるでもなく、ただそこにあるだけの手。

「変なやつだな」

すぐ隣で声がした。
いつもの反論は、今は無理。

「自分の仕事でもないのに、そこまで抱えるなよ」

キーボードの音が聞こえないと、こんなにも高橋さんの声は響くんだな。
声を押し殺すのに必死で、何も言えない。

「いっつもあんなにうるさいくせに」


変なやつ、ともう一回言われた。

その言い方は、呆れているみたいで。
でも、背中にある手だけは、呆れてなんかいなかった。





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