この恋、予定外。
さっきまで止まっていた思考が、ゆっくり戻ってくる。
数字を追って、順番を組み替えて、やるべきことを一つずつ処理していく。


隣に人がいるだけで、こんなに違うのかと思う。
─────いや、違う。
ただ誰かがいるからじゃない。

この人だから、だ。

ふとそんなことが浮かんで、私はすぐに視線を落とした。

余計なことを考えている場合じゃない。


「間に合わせる前提で動いてたな」

不意に話し出した高橋さんの声に、私の思考が一瞬だけ止まりそうになった。

「こういう時って、たいてい止まるのに。しかも、その後輩は帰らせて自分だけ」

評価でもなく、慰めでもない。

ただ、必死に走り続けたあの時間を彼は見ていた。
それだけは分かった。佐野を帰らせたところも。私が、止まらずに動いてたことも。


「…かっこつけたかっただけですよ」

今度はちゃんと、言葉を返せた。けど、その言葉は少しだけ弱い。

隣で彼がふっと笑うのが聞こえた。
だからといって、高橋さんはそれ以上何も言わない。
ただ、さっきと同じ通りにキーボードを打ち続けている。


胸の奥にさっきとは違う感覚が残る。
ざらつきは消えた。今は少しだけ、軽い。


やっと、画面の向こうに希望が見えた。

「高橋さん。あとこれでひと通りいけます」

「よし。配送、間に合うな」

「はい!」

私は一度だけ手を止めて、Enterキーを押す。
そしてゆっくりと息をついた。肩の力が、さっきより少しだけ抜けている。


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